剥き出しの欲望

ゲオカイ *R-18
死線を越えたゲオルグが、普段のように温かく出迎えてくれたカイルを荒々しく抱く話。

単独行動は常に死と隣合わせだ。相性の悪い敵に囲まれた時は、その予感が色濃くなる。
このようなところで死んでたまるものか。その一心で全ての者たちを斬り捨てる。立て続けに繰り出された魔法攻撃によって、今回ばかりは死を覚悟した。しかし、自分は生き延びている。無事とまではいかなかった身体を引きずり、本拠地へ急ぐ。ルクレティアへの報告は後回しにして傷を回復させなくては。他者に心配をかけるのは不本意だ。それは相手が軍師であろうと例外ではない。深夜の本拠地は静まりかえっているが、何処かで誰に見つかる事態もあり得る。自室に辿り着くまでは油断出来ない。ただ一人、そこで過ごしているかもしれないカイルの存在が気掛かりだ。見つかれば確実に心配をかける。今日は、あの部屋にいないようにと願う。いや、彼に会いたい。普段のように柔らかな笑顔で出迎えて欲しいとも思う。
二つの本心が、せめぎ合う。負傷していなければ会いたいと願うそれが何より強かったはずだ。先ほどから思い続けている男には他の誰よりも心配をかけまいと考えるも、同時に誰よりも甘えてしまっているのが現状である。細心の注意を払いながら自室の前まで行く。一呼吸置き、扉を開けて中に足を踏み入れた。
辺りを見回し、カイルがいないとわかる。心から安堵すると同時に寂しいという感情もわずかに抱く。その思いは捨て置き、傷の手当てを始める前に部屋の内鍵をかけようとする。その時であった。
ドアの向こうに気配を感じる。誰かが見回りを行なってくれていると考えていたが、こちらが施錠を終えるより先にドアが開いた。
目前に立っていたカイルを見て、あまりにも自分は呑気に物事を考えていたと思い知る。
本当に心配をかけたくないのであれば、すぐに鍵を閉めるべきであった。
結局、彼に一目会いたいという気持ちが何より勝ってしまっていたようだ。
寝間着ではなく、騎士服姿の様子から先ほどまで見張りなどをしてくれていたのかもしれない。
「わー、ビックリした」
「それは俺の方だぞ? 言葉のわりには、平然としているように見えるが……」
口にした通り、カイルはそれほど驚いているように見えない。
本心を悟られないようにするのが、相変わらず長けている。
「そんな事ないですよー。ドアを開けたら、まさかすぐ近くにいないと思ってたあなたがいるなんて。驚かないわけないでしょー」
「なるほどな」
納得しながら、このまま立ち話を続けるわけにはいかないとの考えが浮かんだ。夜中といえど誰かに見つかる可能性もある。ひとまず彼を自室に招き入れ、今度こそ鍵をかけた。
「お邪魔しまーす」
こうして密やかに顔を合わせる時に、カイルは決まって悪戯めいた表情を見せてくれる。それは太陽宮にいた頃から変わらない、愛しい仕草の一つだ。
「なんとなーく気持ちが傾いて、ここまで来てみましたけど。直感は正しかったですね。オレって、すごいんだなー」
「同感だ」
このような状態で彼と顔を合わせてしまった今を心苦しく思うも、やはり本音は嬉しかったと実感する。察しのいい彼なら、こちらの異変にすぐ気付いてしまうだろう。カイルと顔を合わせられた安堵と、平然を装っても見破られてしまう予感がゲオルグの膝を折った。その場に崩れ落ちそうになったところをカイルがすかさず支えてくれる。
「やっぱり、怪我してますね。手当てをするんで、とりあえず……ベッドに行きましょうか。歩けます?」
「……いつから、気付いていた?」
彼の問いに頷いた後でその場から立ち上がり、寝台に向かいながら今度はこちらが相手に問う。
「あなたと顔を合わせた直後ですね。様子がおかしいって、すぐわかりました」
「相変わらず、察しがいい」
「そりゃどーも。まー、わかりやすかったから」
「そうなのか?」
寝台に腰掛け、正面に立つ彼を見上げながら驚く。そこまで早い段階で気付かれているとは、思っていなかったからだ。
「はい。だって、何事も無かったら……あなたは真っ先にオレを抱きしめてくれる」
カイルに言われて、無意識の内にそれが習慣付いていたのだと実感する。自分にとっては何気ない仕草でも、相手は意識してくれていたのか。あくまで仮定だが、嬉しいと思わずにはいられない。
「口元が笑んでますよ?」
「おまえが、俺の行動を把握してくれていたからな」
「そっかー……」
カイルはそれ以上何も話さず、水魔法の詠唱を始めた。程なくして、身体の痛みが消えていく。
「どうですかー?」
「全快だ。すまん、世話になった」
「こんなの、お世話の内に入りませんよー。ほんとによかった……。魔法だけで、どうにかなってくれる怪我で」
このうえなく心配をかけてしまったとわかり、申し訳なく思う。気休めでしかないが、その場から立ち上がって彼を抱きしめる。
少しでも慰めになってくれればいいと考えてはいるも、何より自分がこの男に触れたかった。
「おかえりなさい」
背中に腕を回され、優しく囁かれる。顔を合わせれば自然と唇が重なり合う。
「っ、……ん、ぅ」
ゲオルグは己の行動に戸惑う。普段よりも性急にカイルを求めてしまっていたからだ。呼吸の隙を与えず、自らの欲望のままに形のいいそれと口内を貪る。
「待って……、ゲオルグ殿……」
彼の両手に胸を押されて動きを止めた。まだ、幾分か理性は残されていたとわかるが、この瞬間も彼に触れたくてたまらないとの欲が何より強い。こんなにも欲に己が支配されるのは初めてだ。
少し戸惑ったところで、答えは少しずつ見えてくる。
選択を誤れば命を落としていた。その窮地から抜け出せた事実がゲオルグの気を荒ぶらせ、欲望を剥き出しにしているかもしれない。カイルに抱きしめられ、枷が外れたのだ。
「報告……行かなくて、いいんですか……?」
「あとでいい」
「それなら、いいんですけど……」
「乗り気ではないのか?」
何処か釈然としない様子の彼に問う。
「そんなわけないです。あなたこそ、どうしたんですか? いつもだったら、お風呂に入ってからするのに……」
確かに、カイルの言う通りだ。今はその余裕すら削げていると気付かされる。残っている理性が消え失せてしまうのも、間もなくだろう。
「その時間すら、惜しいからだ……」
口にはしたものの。このまま行為に及んでしまうのは、相手にとっては本意ではないのかもしれない。
それなら今の言葉を撤回するか。格好はつかないが、カイルを無理に抱いてしまうより良い。
「わかりました……」
「カイル?」
ゲオルグが何かを言うより先に、戸惑いを匂わせていた相手が笑みを浮かべる。
「こんなに激しく求められちゃったから……オレもその気になっちゃいましたー」
「っ?」
一瞬の隙を突かれて寝台に押し倒された。彼に組み敷かれたのかと気付いた時には、カイルに見下ろされている。得意げな表情が可愛らしい。
「あなたが今すぐ欲しい。責任、取ってくださいね?」
ゲオルグの上に乗ったまま、彼は髪を解いて額当ても外す。
「あぁ、そうさせてもらおう」
今すぐ形勢を逆転させ、その身体を貪りたい。その衝動は健在だったが、乗り気な彼がどんな事をしてくれるのかを見届けたい。それによる興味が何より勝っていた。

理性はとうに残されていない。それでもまだカイルを見上げていられるのみに留まっているのは、彼の行動を眺めていたいからだ。
ゲオルグの性器を後孔でくわえ込み、己の性器を揺らして腰を動かしている。
「っ、すごい……やらしー、顔……っ」
こちらの腹部に置かれていた両手に、頰を包まれた。
「人の事は言えんだろう?」
「あっ……」
片手で相手の性器に触れ、先走りを塗り込むように音を立てて擦る。カイルはそのまま仰け反って内にあるゲオルグをしめつけた。たまらずに息を漏らすと、彼は嬉しそうに笑む。
「ね……オレも、そんなに……やらしー顔、してます?」
「している」
「どんな、顔……してますか?」
「気持ち良さそうだ……」
「……ぁ、っ」
下から突き上げると、一層感じた表情を隠す事なくカイルは晒す。
「ぁ、……あなたも、すごーく……気持ち良さそ……」
頰に置かれていた両手は胸へ移り、そこを揉みながら囁く。
「あぁ、心底気持ち良い……」
こちらはカイルの尻を両手で掴み、彼を真似るように揉んだ。
「おっしゃる……とおり、です……っ」
やや緩やかであった動きが、少しずつ速度を増す。カイルの性器からこぼれる先走りが、ゲオルグの腹部に落ちた。
「も、イキそ……っ、あなたは、どう……ですか?」
「同じだ」
絶妙な力加減でしめつけられているそれは今も大きさを増している。
言葉にした通りこの男同様、今すぐにでも達してしまいそうだ。
「このまま、中で……出していいですよ……っ」
普段であれば躊躇うが、今はその言葉に甘えてしまおうと思う。胸に触れる手が止まり、背中を仰け反らす相手の内に誘われるがまま吐精した。カイルも同様に達し、ゲオルグの腹部を汚す。疲れた様子の彼がそのまま倒れ込み、胸で受け止める。体力の消費が激しいと察した。ここまでにしておくかと片隅で考えるが、今は足りないという感情が何より強い。
「まだ……足りん」
「ぁ、っ……」
再び尻を掴み、両手で揉みながら囁く。入ったままのそれが再び刺激され、大きさを増した。
「おまえも、そうだろう……?」
これで事足りるようなら先ほどのような誘い方はしないはずだ。横たえていた身体を起こし、カイルの腰を掴んで自身を引き抜く。今度はこちらが彼を組み敷き、熱に浮かされている顔を見下ろした。
「はい……」
目元を細めて吐息混じりの姿は、とても扇情的だ。本能のまま顔を近付け、薄く開けられていた口に舌をねじ込む。
「……、っ」
わずかに漏れる吐息も愛おしく、どうにかなりそうだった。いや、既になっていると自覚している。カイルの片足を抱え、開きながら後孔へ自身を擦りつけた。
「も、焦らさなくて、いい……からっ、早く……」
本能に支配されているとはいえ、彼を気遣う気持ちは少なからず持ち合わせている。行為を続行するのであれば、相手の様子を窺う事は当然だ。気遣いの類は、この男にとっては焦らしているように感じたらしい。それだけカイルも乗り気であると伝わり、現状を嬉しく思う。
彼は自らゲオルグが触れていない方の足を広げ、こちらを受け入れようと言わんばかりに後孔を指で広げて見せた。
「ほら……まだ、足りないって……ひくついてる、でしょ……?」
誘われるがままに慣らしきったそこを指で軽く押せば、すんなりと飲み込まれる。
「も、違う……指じゃなくて、こっち……」
やや身体を起こしたカイルに性器を掴まれた。普段よりも乱雑と感じるのは、それほどまでに彼の余裕が削がれている故だろう。
「早く、してくれないと……オレがまた、乗っかっちゃいますよ……?」
挑発的な笑みは、こちらをその気にさせてくれた。
「それも悪くはないが……」
彼の片胸を押し、寝台へ沈めて覆い被さる。
「おまえに任せてばかりでは、性に合わん」
満足そうに微笑む相手の額に前髪を退かして口づけた。その後、相手の望みに応えようと性器を後孔へ収める。
「あっ、すごい……まだ、全然……物足りて、ないんです、か……?」
「おまえも、そうだろう?」
緩やかに腰を進め、奥深くまで堪能しながら問う。
「はい……。もっと、欲しい……っ」
内の圧迫によって苦しそうにしながらも、この男はこちらを抱き寄せる。より深い交わりに目眩のようなものを感じた。
「おっきくなった……」
改めて口にされると、少々気恥ずかしい。
「おまえが、俺をその気にさせてくれているからな」
「ん……」
両胸を掌で包み、先ほど自分がされたように相手の胸を揉んだ。先端を指先で摘みながら腰を打つ。
「気持ちいい……」
漏れた呟きを聞き取り、心からの言葉だと察した。
「こっちも、触って……」
己の性器をゲオルグの腹部に擦りつけながら誘うように囁かれる。甘えるような仕草は愛らしく、応えたいと心から思えた。望み通りにしようと、カイルの性器に触れる。
「嬉しい……っ、ゲオルグどの、おれの言うこと、んっ……なんでも、きいてくれて……」
「何より俺が、そうしたいからな」
言葉通りの感情を露わにしている相手を、もっと気持ちよくさせたい。
「カイル。次は、どうされたい……?」
それぞれの手で胸と性器に触れながら問う。相手が少しでも話しやすいようにと、腰の動きだけは緩める。
「……」
この男が何か言おうとしているとわかったので、耳を傾けた。
「もっと、おかしくなりたい……っ」
カイルの情欲がゲオルグの耳を伝って脳内に沁み渡る。望み通りにしてやりたい。最初からそのつもりだ。何かを話そうとはせず、それまでより動きを早めた。
「すごい……また、こんなにして……」
「足りないからな……」
うっとりと呟くカイルの頰を撫でながら顔を近付けてゲオルグは囁く。
「欲張りさん……」
相手もゲオルグの首筋を両手で撫でながら顔を近付ける。口づけをせがまれているとわかり、即座に応えた。数回、触れて離すだけのそれを繰り返した後で舌を絡め合う。口内を犯しつつ、腰を動かす事も忘れない。
「っ、ん……」
こちらが彼の弱いところを擦れば動きが止まる。相手はそのまま身を委ねず、再び動く。ゲオルグを自ら気持ち良くしようとしている故だ。その懸命な仕草は胸の内を温める。
「ゲオルグ、どの……、もっと、ゆっくり……っ」
「何故だ……?」
動きは緩めずに問う。
「すぐ、イッちゃう……から、っ」
「構わん」
「あっ、まって……こんなんじゃ、おれ……もたないっ……」
それならば動きを止めるべきだ。頭の片隅では思う。しかし行動に移せない。己によって翻弄される相手が可愛らしい。その様子を、もっと眺めたいと強く思う。こんな気持ちは初めてだ。自身の欲望を何より優先させたいのは、やはり命の危険を感じたせいなのかもしれない。
うっすらと理由が浮かんでいるが、今はそれについて深く考えようとはせずに行為に没頭する。
「本当か……? これで満足するとは思えん」
「そ、そうだけど……ぁあっ、ん」
先端のみが埋まるところまで腰を引き、再び性器全てを収めた。制止させようとしているカイルは、その意思に反して内にいるゲオルグをしめつける。
「がっつき……すぎ、ですよ……っ」
「あぁ、そうだな……おまえが、今以上に俺を欲情させる」
「人のせい、に……して……」
彼の言う通りなので、否定もせずに苦笑して頷いた。
「もー……ほんっとに、ずるい……」
「何でもいいさ。おまえを堪能出来るなら、どう思われようとも。ところで、何がそんなにずるいんだ?」
ふと、浮かんだ疑問を口にする。
「そういう、ところですよ。無茶、言われてるのに……そんな笑顔、見せられたら……甘やかしたくなる」
思わぬ言葉に動きが、ほんの一瞬のみ止まる。慈しみと欲情が入り混じった表情は、心が鷲掴みにされるような気にさせた。
「どうしました……?」
カイルが、それを見逃さずに問う。その表情は、どこか楽しそうだ。この男の中ではゲオルグが何も言わずとも既に答えは出ているのだろう。あくまで、こちらの反応を窺っているのみと察する。
「自覚しているんだろう?」
「えぇ。いつも大体無自覚な、あなたと違って……」
からかうような言い方に少しの仕返しをしようと、繋がったまま腰を強く打ちつける。
「っ、ムキになっちゃって……っん、かわいい……」
「無自覚で、悪かったな……」
心をくすぐられるような感覚に耐えきれず、軽口を叩くその口を自らの口で塞いだ。この男は、こちらを煽る事に長けている。今のように翻弄されていると感じられる瞬間を、ゲオルグは嫌がるわけではなく喜ぶ。
嬉しさを噛みしめながら、おかしくなりたいと願った当人が喘ぎ声しかあげられないように抱く。今では知り尽くした、この男の弱い箇所を己で擦る。
「んっ……! っ、ぁ」
相手も自分と同じように、少しでも翻弄されていてくれたら嬉しい。それ以上に、この男を感じたかった。
「ゲオルグ殿……っ」
唇を離した後、吐息と共に名を囁かれる。
「帰って来てくれて……ありがと、ございます……」
「……!」
その後は、よく覚えていない。思いと愛おしさが、ゲオルグの臨界点をいよいよ突き抜けてしまった。
「すごいっ……! あっ、きもち、ぃい……っ」
余裕なく、己本意のみでカイルを抱いている自覚はあった。相手の負担は、相当重くなる。わかっていても今は抑えられない。もっと彼の乱れた姿が見たいと、その気持ちが大半を占めている。
「ん、イイ、けど……、ちょっとまって……」
感じていながらも相手がこちらに制止を求めようとしている。把握出来たが、それでもまだ止めようとは思えない。動きを抑えるどころか、より激しいものとなる。
「ね……もう、おれっ……むり、だから……ぁっ」
ゲオルグに縋りつき、力なく喘ぎながらの抵抗だ。それはこちらを、より煽るものとなる。
「やだっ……ぁ、あっ」
拒絶の言葉を口にしながらもカイルはゲオルグのそれを離さないと言わんばかりに、しめつけていた。彼が意図して行っているわけではないと、そのような考えが浮かぶ。本能はこちらと同じく貪欲に求めてくれているのか。都合の良い解釈と承知で今はそうだと考える。
カイルを食らいつくそうとする勢いでゲオルグは犯すように抱く。
無我夢中であった自分が行為を止められたのは何度目かに達した直後、相手が意識を手放した時であった。

ここまでカイルを手酷く抱いてしまったのは、初めてではないか。ゲオルグは罪悪感に苛まれている。
せめて出来る事は全て行おうと、当人を起こさないよう慎重に身体の汚れを拭って寝台に寝かせた。その後は何時起きてもいいようにと、水差しとグラスの用意をする。
この程度では罪滅ぼしの足しにならない。このまま自分が発つまで目覚めなければ次に会えた時、謝るしかないだろう。
いつ死んでしまってもおかしくはない状況で、現に今日がその日になってしまうところであった。とはいえ、恋人を激しく思いのまま抱いてしまっていい理由にはならない。
これが最後になるかもれないと考えながらも、また彼に会いたいと同時に願ってしまう。覚悟が緩んでしまっていると痛感するが、その意思を改めようとは思わない。生きる糧を持つのは悪い話ではないだろう。生きたいという願いが目的遂行のためなら命を失う事を恐れていなかった思いを少しだけ追い抜いた。
この戦いを最後まで見届けたい。今後も王子の力になりたいとも願い、一日でも早く現状を好転させたかった。当の少年たちや、カイルが愛している国の姿を取り戻す手伝いがしたい。その末端に、この男を愛おしむ気持ちがあってもいいはずだ。
気持ちがまとまったところでルクレティアへ報告に向かおうと寝台から背を向けた直後。片手を掴まれて驚く。振り向けば、目を開けたカイルがゲオルグを見ている。やや気怠そうに見えるのは、それまでの行為の名残故だろう。
「……反省、してますね?」
起こしてしまったのかと、こちらが訊ねるより先に相手が口を開いた。声が普段の事後以上に枯れている。その言葉から心境を見透かされていると思い知らされた。
「そう、見えるか?」
わかりきっているが、問わずにはいられない。
「さっきも言いましたけど……あなたは時々、とってもわかりやすいから」
ゲオルグの全てを肯定するかのような慈愛に満ちたカイルの笑みに見惚れる。一旦、彼の手を離して身体を再び寝台に向けた。離した手を握り直すと、相手も優しく握り返してくれた。
「おまえの考えている通りだ。いくら許されているとはいえ、度が過ぎた」
空いている手で彼の頭を撫でながら囁くと、苦笑される。
「気にしなくていいのに……」
「気を失うまで抱いてしまったんだぞ? それは無理な相談だ」
「……懲りちゃいました?」
「そうだな。この罪悪感からは逃れられんし、目を逸らす気もない」
「真面目だなー。でも……」
「……?」
今度はカイルがゲオルグの手を離し、そのまま抱き寄せられた。彼の元へ倒れ込んでしまうが、強く抱きしめられているので身動きが取れない。
「そーゆーところも、大好きです……」
相手に背中を撫でられつつ囁かれる。
カイルの好きにさせながら心地いい彼の指と掌を感じていると、言葉を続けられた。
「すごく、よかった……。最高の気分です。だから、お願いします。懲りないで」
罪悪感は徐々に霧散し、再度カイルの唇を貪る。他でもない彼が願ってくれるならば、これ以上に己の行いを悔やむ必要はない。満足そうに微笑む瞳に心底嬉しそうにしている自分が写っていた。