拍手お礼文2

太陽宮にて、密かに時間を共に過ごした後のゲオカイ。

太陽宮の自室にて、カイルは身支度を整えている。これから深夜の宮内と城下町の見回りに向かう。
仕上げに髪を結び、身だしなみの確認をしようと姿見の前に立つ。特に問題はないが、そこに映る自分は複雑そうな表情をしている。
(どう考えたって……女性的ではないよね……)
同室の寝台で眠っている、ゲオルグの様子を眺めながら感じる。
せめて自分の身長が、もう少し低ければ彼の手を煩わせる事もないのではないか。
何故彼は同じ目線の男を愛でて、あそこまで楽しそうにしているのかと思いながら姿見に向かって苦笑する。かくいう自分も、人の事は言えないからだ。
背の高さなど関係ない。何より相手との秘めた時間を過ごせる事実が嬉しい。気持ちは既に明確だが、時折こうして考えてしまう。例えば、彼の腕の中に収まってしまうほど自分が小柄だったら。きっと、今以上にゲオルグを全身で感じられるのではないか。
彼との時間が終わりを迎えようとしている現状。その名残惜しさが己を少しだけ後ろ向きにしているのかもしれない。
嘆いていても時間が止まるわけではないので、心を無にしようと試みる。その矢先、背後に気配を感じた。気付いた時には、ゲオルグに抱きしめられている。
「もう、そんな時間か?」
「はい。名残惜しいですけど……また、時間があった時はご一緒しましょ?」
「何処に行くんだ……」
「もー、半分寝ぼけてますね?」
いまひとつ噛み合わない会話から察する。この男は、カイルの予定を昨日の内に訊ねていたからだ。
「ちゃんと、起きてる」
と、相手は言うが。その声音は、やはり完全に起きているとは感じられない。
「……ゲオルグ殿。重いんですけど」
決して、心底迷惑に感じているわけではない。親しみを込めた、からかうような言い方をする。
「……」
先ほどから思っていた通り、彼は寝惚けていた。こちらに身体を預け、気持ち良さそうに寝息を立てている。
(もしもオレが小柄だったら……こんな風にはいかないよなー)
カイルは、先ほどまでの考えを撤回した。
自分は女性のような柔らかで、彼の腕に収まるほどの身体ではない。だが、それも悪くないと思い始める。
底が知れないと周囲から言われているこの男を受け止められる身体。だからこそ、味わえる愛おしさがあると気付いた。
彼を支えられるこの瞬間、全体重をこちらに預けている現状が嬉しい。
すっかり夢の中に戻ってしまった彼の腕を肩に担ぐ。歩き始めれば起きるかもしれない。しかし、寝台に戻るまでこの男が目を覚ます事は無かった。
「無防備だなー。これじゃ、襲われても文句は言えませんよ?」
相変わらず眠りこけたままの男をそこに寝かせて、親指で相手の下唇を撫でる。柔らかなその感触を昨晩は存分に味わった。思いに耽りそうになるが、今はそうするべきではない。
「おやすみなさい。また、近い内に……」
彼に語りかけると同時に、自らにも言い聞かせる。いつまででも、この寝顔を見ていたい。しかし、それは叶わないとカイルは知っていた。口にした通り、またこの機会が訪れるようにと祈る。その思いと共に、穏やかな心持ちで自室を後にした。