C98 新刊サンプル

ゲオカイ。*R-18
本拠地奪還後。
秘密裏に休暇を与えられたゲオルグと、密かにそれを知らされたカイルが一時の休息を存分に楽しむ話。

時間を気にせず、彼と言葉を交わせたのは本当に久々であった。ここに留まるため、自分の我が儘を聞いて欲しいと相手に無理を言った後。カイルは嫌な顔一つせず、了承してくれた。今は備品を買い足しに行ってくれている当人の帰りを自室で待っている。部屋を出て行く直前の彼は、混乱を滲ませていた。
「戻りましたー」
静かにドアが開かれ、今も思い続けていた男が帰って来る。
「すまんな。助かる」
備品を受け取り、テーブルに置く。その間に、カイルがゲオルグの隣に移動した。長椅子に腰掛けた後の彼は、上機嫌を思わせる。
「どうした?」
「え?」
「嬉しそうな顔をしている」
「あー、顔に出ちゃいましたか。ま、最初から隠すつもりはなかったんですけどね」
微笑んだまま、こちらに身体を向ける。自分も相手を真似て、彼の方へ身体を向けた。
「これまでとは、立場が逆ってのが新鮮だなー。そう思ったんです。ゲオルグ殿が単独行動を続けていた頃は、オレがこの部屋であなたを出迎えていたから」
言われてみて、確かにそうだと初めて気付く。今、ゲオルグはカイルがすぐに戻って来るとわかっているが。この男は、帰りが何時になるかわからない状況の中で待ち続けていてくれた。
数えきれないほど不安にさせてしまっただろう。それでも彼は、どんな時も優しくゲオルグを出迎えてくれていた。
「ゲオルグ殿……? お話、まだ終わってないですよ」
「あぁ、すまん」
気付けば自分は、カイルを抱きしめている。たかがそれだけで心の埋め合わせが出来るとは思っていなかったが、それでも何かせずにはいられない。
「いいですよー。じゃ、このままお話しちゃおうかな」
「そうしてくれ」
背中に腕を回してくれた後、身体を擦り寄せてきた。甘えているのは自分だけではないと思わせてくれる、優しい行為だ。心地良い彼の心音を感じながら話の続きを待つ。
「あなたと立場が入れ替わっただけなのに、それすらも嬉しいって思ったんです。おかしいって自覚はしてますよ」
「仮におまえがおかしいと言うなら、俺もそうだ。カイルに言われるまで、全く気付かなかった立場だが……嬉しいと思わずにはいられん」
「じゃー、二人しておかしいって事で!」
「そうだな」
互いに微笑み合い、身体を擦り合わせる。穏やかな時間は続く。
「オレ、ようやく現状を素直に受け入れられました。ホント、ビックリしたんですからねー」
「悪かったな。なるべく混乱させないよう、言葉を選んだつもりだったが……」
「ゲオルグ殿は悪くないでーす。どう足掻いたって、これは驚かずにはいられない事態だから」
腕の中で今も上機嫌な様子のカイルは、次々と言葉を続ける。
「オレも、ルクレティアさんの考えに大賛成です。コッソリ隠れてた方が、あなたも気兼ねなく休めそうだし。いや、でも……ゲオルグ殿は優しいから、少なからず罪悪感は持ってそうだなー」
相変わらず彼は、洞察力が極めて優れている。前面に出していた喜びだけではなく、心の奥底に残していた思いまでも言い当てた。
「その通りだ。とはいえ、せっかく休みをもらったんだ。その言葉には甘える」
「そうして下さい。で、まったりお休みするにはオレの協力が不可欠って事ですね。いいですよー。喜んで、引き受けまーす」
それが、彼の見つけた答えのようだ。改めて了承してくれた彼は満面の笑みを浮かべる。
「じゃ、ここ数日はオレがゲオルグ殿のお世話をするって事で! 何か、今でも不思議に思います。てっきり、出発する前に少しだけ一緒に過ごしたいって言われるのかとばっかり思ってたから」
言葉通り今も驚いた様子も感じさせながらも、相手は心底嬉しそうに笑っていた。
「俺も実際、いまだに信じられん。夢ではないとわかるが……妙な気分だ」
「オレもです。明日にはもう、あなたは一人で任務に向かってる。またしばらくは、この部屋には誰もいない状態が続く。そう思えちゃいます。でも……今回は違う」
ゲオルグの片太腿にカイルの手が置かれる。緩やかに撫でられる感覚に身を委ね、耳を傾け続けた。
「オレだけは、あなたがここにいると知ってる。それが嬉しい」
その手に自らの手を重ねる。同じ気持ちだとの思いを込め、触れている手に自らの指を絡めて擦り合わせた。
「そう言ってくれるなら、俺の気も軽くなる」
安堵した矢先、相手は表情を変えず距離を更に詰めてくる。気付いた時には既に、自分は組み敷かれていた。肉欲を露わにして色を含んだ目がこちらを見下ろしている。長椅子の上では、やや窮屈だ。しかし苦痛ではない。手を伸ばし、楽しそうにしている相手の頰へ触れた。
「悪いなんて、思わなくて良いですよー。この数日間、ゲオルグ殿を独り占め出来る。それが、すごーく楽しみです。よろしくお願いしまーす」
口調こそ普段と変わりないが、その声音も色を含み始めている。誘われるがまま、彼を抱き寄せて唇を貪り始めた。

―――――――

これまでとは違い、時間に追われているわけではない。例えば、この後すぐに緊急の任務が入ってしまったら。有り得ないとは言い切れない。その予感を抱いても尚、今は彼に触れたいと思う。
「っ……、もう……ほんとに、あなたはオレに甘いんだから」
「そうでもないぞ?」
「え? ……ぁ、ん」
上着を開き、作務衣を寛げて胸に触れる。先端を指先で掠めれば、既にそこは芯を持ち始めていた。
「おまえが迷っていると察しているが、俺は動きを止めようとは思わん」
「あ、すごい……、ちょっと、さわっただけで……オレ、……」
両方を摘んで指の腹で擦り合わせると、感じていると言わんばかりにカイルは声と身体を震わせている。息も少しずつ荒くなり始めた。悦楽に従順な男に情欲が掻き立てられ、思いに任せて腰を相手へ執拗に押し付ける。
「当たって、る……」
もっと感じさせたいというゲオルグの欲が、カイルを強く抱きしめるに至る。
「おまえの声を聞いたら、こうなった」
「……人のせいにしてー」
「そうだな。……もっと聞きたい」
「……っ、まって……あ、っ」
胸に触れていた片手を下腹部に移す。布ごと反応を示している場所を掌で支えるように触れれば、甘い声があがる。その声が聞きたかった。今の一度では足らず、より執拗に愛撫を施す。強くなり過ぎないよう、やんわりと握る。
「カイル……」
たまらずに名を呼び、それまでよりも反応しつつある性器を彼の腰へ再度押しつけた。
「……抱きたい」
相手の反応を待たずに己の欲を伝える。我の強い意見だとも自覚済みだ。
「はい……。抱いて、下さい……」
性器へ触れている手に、カイルの手が重ねられた。彼の好きにさせようと様子を見ていると、こちらが触れていた手を退かす。その直後、振り向いた当人に唇を重ねられた。透かさず相手の舌が唇を這ったので、口を開いて迎え入れる。互いに性器を押しつけ合い、息遣いも次第に荒くなっていく。互いに性器を押しつけ合い、こちらの息遣いも次第に荒くなっていく。
「っ、嬉しいなー……」
口づけの合間の呟きに、同意だと言葉を返す代わりに、相手を強く抱きしめる事で思いを伝える。
「ゲオルグ殿も?」
「あぁ……。我ながら欲深い。昨日も思うまま、おまえを抱いたというのに。それでも、足らんようだ」
「他人事みたいな言い方してー……。ま、オレも同じ気持ちだけど」
色を含みつつも、無邪気さも微かに感じさせる様子で笑んでくれた。心の底から愛おしいと感じる。昨晩から何度も思っている事だ。この感情は底無しだと、改めて実感した。
「異論はないな?」
「当然です」
吐息混じりに肯定したカイルが、ゲオルグの上服を脱がし始める。前を開き、両胸に彼が触れた。こちらは相手の髪を解き始める。美しくまとめられた髪は頭頂の長紐と毛先の髪留めを外すと、たちまち形を崩す。指通りの良いそれが、重力に沿って下に流れる様子は何度見ても飽きない。今後も同じ気持ちでいるのだろう。昨日も存分に触れた身体と髪は、何度触れても足りない。行為中は確かに心が満たされる。しかし、時が経てば再度恋しくなり続けていた。
「まさか……立て続けに、こんな風にあなたと過ごせるなんて。ホント、夢みたいですね」
「そうだな」
このまま覚めなければいい、時が止まってしまえば……。一瞬ではあるが考えてしまう。だが、それには深く囚われない。休暇の終わりを嘆いたところで、自分に何か出来るわけではないからだ。
「何か、考えてます……?」
「色々とな」
特に否定する理由はないが、それを全て説明するには時間をかける。よって、この一言で片付けた。
「へー。まだ、そんな余裕があるんだー……」
ゲオルグの両頬を撫でていたカイルの笑みが、挑発的なものへと変わった。この後、何を仕掛けてくるのだろうか。期待が膨らみ、笑みが一層強くなる。
「だとしたら、どうしてくれるんだ?」
「……オレの事しか、考えられなくしてあげます」
「そうか。それは、時間の問題だな」
カイルを心底好いているゲオルグだからこその返答だ。相手もそれを理解しているからこそ、ますます上機嫌な様子で微笑む。
「それは嬉しいですね。思わず調子に乗ってしまいそうです」
「思うがまま、乗ればいい」
「……なるほどー。そっかー」
何気ない一言であったが、彼にとっては何かを思いつくきっかけとなったようだ。
「どうした?」
胸中で考えを留めようとするより先に、ほんの疑問は言葉となる。
「いいえ、なんでもありませーん。そんな事より……」
肩を押され、寝台へ移動するよう促された。相手の意図が今も気になるが楽しみは残しておく。焦らずとも、その答えは後に考えればいい。悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべている愛らしい彼の気を削ぐような真似はしたくない。
この男は、今からこちらを驚かせてくれようとしている。答えを急かすのではなく、当人のペースで進めて欲しいと願う。促されるまま寝台の方へ歩み寄った直後。得意気な表情の相手に押し倒された。顔を近づけられると、しなやかな髪が素肌に触れる。少々くすぐったい感覚も、嫌ではない。毛先に指先で触れ、昨日も堪能した指通りを再度実感する。
「あなたは本当に……オレの髪がお好きなんですね」
「髪だけではない」
それは既に悟られているとは思うが、言葉にした。
「……知ってます」
額当てを兼ねた眼帯を外され、相手の額が重ねられる。
「オレは……とことん、あなたに愛されてるみたいですね。恐れ多いなー……。でも、すっごく嬉しい……」
吐息を直に感じられる距離から相手の顔が近づき、まるでこちらを慈しむかのように唇を優しく重ねられる。優しくも欲に忠実な深い口づけに、情欲が増す。両頰へ触れながら同士を絡ませ、音を立てて吸う。
「っ……ん」
吐息に耳を傾ける。自分のペースに相手を巻き込んでしまわないよう、注意しながら貪った。
「もー……そうやって、まだ……オレを気遣えるんですね……」
唇を離した後、囁かれる。悔しそうにしている様子を露わにしていた。相手を気遣おうとしていた自らの行動は悟られ、相手の機嫌を損ねてしまったようだ。とはいえ、己の意思を変えようとは思わない。本意にのみ従って抱こうとすれば、この男を壊しかねないからだ。
「ゲオルグ殿は、オレを甘く見過ぎです」
笑みはわずかに残し、こちらを試しているような鋭い眼差しで見つめられる。
「そんなつもりはない。昨日に続いて、おまえに負担を背負わせるんだ。気遣うのは当然だろう?」
「確かに、その通りではありますけど……やっぱりオレとしては、ちょっと不本意だなー。そりゃ、優しく抱いてくれるのも嬉しいですよ? ゲオルグ殿らしいなって感じられるし、あったかい気持ちにもなれる。でも……」
それまで浮かべていた挑発を匂わせていた表情が、切ないと言わんばかりのものへと変わる。
「今は、あなた本意で抱かれたい。それに、先ほどもお話しましたけど……こっちの事情とか気にする余裕がなくなるくらい、オレの事しか考えられなくしたいです」
見つめられたまま腹部を撫でられた後。性器を取り出され、相手の指が絡む。
「こんな風にしてるのに、今もオレを気遣ってくれてるなんて……。それは嬉しいです」
焦らすように全体を指先で擦られ、もどかしい感覚に息を呑んだ。
「今すぐ、挿入れたいんですよね? 違うって言われても、これじゃ説得力もないなー」
その言葉通りであったため、特に口を挟もうとはせずに彼を見つめる。今すぐ、自分本意で相手を抱きたい。己の欲に任せないよう、負担を背負わせてないようにしなくては。どちらも本心だ。均等に保たれている二つの気持ちのどちらに本能が傾くか。それは目前の男次第だ。
「おまえの言う通りだ」
視線は逸らさず、吐息混じりに呟く。己の行動は自ら決めるのがゲオルグにとって常であるが、カイルに身を委ねてしまうのも悪くはないと考える。
「正直、まだまだ足りん。カイルが欲しくて、仕方がない」
心からの思いを言葉にすると、相手は再び嬉しそうに笑んでくれた。
「嬉しいな。それじゃ、もっともっと……その気になってもらえるように頑張らないと」
得意気に語る当人は、この後どんな事をしてくれるのか。わきあがる期待に改めて心を躍らせながら相手の様子を窺おうとしたが。それだけでは物足りないと明確に思う。組み敷かれている状態から空いていた片手を相手の腰回りへ移し、こちらも焦らすように撫で始めた。先ほどまでは、彼を見守るのみでも悪くないと思っていたはずだった。少しずつ、この男を欲する気持ちが何よりも上回り始めているのかもしれない。
「……いいですよ。好きなだけ触って」
その言葉に甘えようと、身体を起こして彼を抱きしめ直す。身体を密着させ、この男の心音を肌で感じる。
「すごい……ドキドキしてる。どっちの音だろ……。一つになっちゃったみたいです」
「そうだな……」
カイルが言っている通り、今感じている心音はどちらのものか明確には認識出来ない。欲情のあまり、心音がうるさく鳴り続けているのはゲオルグも同じである。熱に浮かされ続ける状況に酔いしれていると、再び彼から唇を重ねられた。先ほどよりも、激しいと思うのは気のせいではないだろう。
「っ、もっと……ですよね。オレも、こんなんじゃ全然足りない……」
一呼吸置いた後、それまで以上に荒々しく唇を貪られた。口づけだけではなく、両胸を揉まれながら性器を腹部に押し当てられる。やられてばかりでは性に合わないので、こちらも思うまま相手の身体に触れた。
「……悔しい、な」
小さな呟きは恐らく、無意識の内に漏れたひとり言に違いない。聞き取れたその言葉から、ゲオルグによってカイルの余裕が削がれていると察する。今も、彼に身を委ね続けようという思いは揺らぎ続けていた。
「すまん。やはり、何もしないままでは耐えられん」
「言葉になっちゃってたか……」
こちらに言われて、初めて気付いた様子のカイルは少々ばつが悪そうにしている。
「あぁ。聞き流す気にはなれなかったからな」
向かい合って互いの身体に触れていた状態から、今度はこちらが相手を組み敷く形を取った。
「そんな顔はしなくていい。元を辿れば、俺が仕向けて言わせてしまった事だ。おまえに身を任せてしまうのも捨てがたいが……今は俺からもカイルに触れたい」
「なるほどー。そんな風に言われちゃったら……応えないわけにはいかないなー。あ、でも」
肯定の様子を見せつつも、他に何かを考えているとわかる表情で彼は言葉を続ける。こちらが何かを訊ねる隙はない。
「……あなたに身を任せるだけじゃなくて、オレも触りたい」
「かまわん。むしろ、そうしてくれた方が嬉しい」
「はーい……」
本心を告げると、心底嬉しいと言わんばかりに笑みを浮かべられた。どちらからともなく唇を重ね、交わす言葉の代わりに互いの身体を触る。やはり何度口づけを繰り返しても、この身体に触れても。己は彼を欲し続けるのだろう。
「んっ……」
吐精させようと彼の性器を掌と指先を使って擦り続けると、甘い呻きを聞かせてくれた。その声もまた、何度耳にしても欲し続けるのだろう。
「ぁ、気持ち……いぃ」
彼の状況から、それは明らかだと認識している。しかしこの男は、自らの心境を改めて口にしてくれた。そうする事によって、こちらが喜ぶと知っているからだ。
「もっと……、いっぱい、さわって……っ」
ゲオルグの気を更に良くしようと、熱に浮かされつつある頭でカイルは必死に考えて言葉を選んでくれていると伝わる。相手の望むまま身体中を片手で触れて、もう片方の手は引き続き性器を擦り続ける。
「っあ、……!」
腰を動かし続け、こちらの手中に精液を吐き出す。それを受け止め、彼の呼吸が整うまで少し待つ。この男は既に、されるがままの状態になりつつある。本人にとってそれは不本意とも考えられた。目前の表情が、それを物語っている。しかしゲオルグは、己の意思を変えようとは思わない。もっと、カイルを気持ちよくさせたい。自分の事しか考えられなくしてしまいたいのは、こちらも同じ気持ちであった。それについて、彼に話しておきたい事柄が一つある。
「おまえは不服かもしれんが……」
合間に頰へ口づけた後、たった今発した言葉の通り少々不機嫌そうにしている相手の表情を至近距離で見据える。戸惑いがちではあるが目を合わせてくれた彼を愛おしみ、言葉を続けた。
「俺は、カイルに触れたい。気持ちよくさせたい。そればかり考えている」
相手の機嫌を少しでも良くしたい。もちろん、その思いもあった。しかし今は、自分が抱いてる気持ちを聞いてほしい。それが何より勝っていた。
「嬉しい……。お世辞じゃないって、ちゃんと伝わってるから。あー、もっと……調子に乗ってもいいですか?」