ふと浮かんだ気の迷い

ジャック2p×ヴィルヘルム 上司とのお茶の時間に黒(ジャック2p)は一つの疑問を抱く。

もしも自分が弟と同じく姿を眩ませたら。この上司は心を痛めてくれるだろうか。
妄想なのだから都合のいい上司の表情を思うがままに脳内で描けばいい。しかしそれを前提としたうえでも、彼の表情を描く事を黒は出来ずにいた。
「何やら難しい顔をしているな?」
「……俺だって、たまには色々考える事があるんだ」
上司であるヴィルヘルムの私室に喚ばれ、彼と共に紅茶と焼菓子を嗜んでいる最中。黒は彼の表情を盗み見ていた。
「悩み事があるならば、聞くぞ」
「そんな大層な話じゃねぇよ。気にすんな」
この男との大切な時間に場違いな事をしてしまった。早々に詫びて話題を変えなくては。
「上司としてではなく、恋人としてお前の思いが気になるのだが」
しかしヴィルヘルムはそれを不本意だと感じているようだ。
「お前なー……そういう事を簡単に言うなよ。気恥ずかしいだろうが。……嫌じゃねぇけど」
声量が語尾につれて明らかに落ちていたが、ヴィルヘルムの表情からして思いは全て伝える事が出来たのだろうと確信する。
「……今みてぇに喜んだ時の、ヴィルの顔が可愛いなって思ってたんだよ」
「何だ。そうであったのか。しかし……嬉しく思うが気恥ずかしいな。黒の言葉の意味を理解した」
それまで抱いていた疑問を口にする事はせず、たった今浮かんだ思いを告げる。ヴィルヘルムは更に表情を綻ばせ、上機嫌で紅茶の入ったカップを手に取り口をつける。
黒はいかに自分が愚かな事を考えていたのかと気付く。
弟の消息が不明となった時。この上司は心を痛めていた。その表情についてはいまだ記憶に新しい。
悲痛な表情をさせるより、今のような表情を自分は常にさせたいと思う。
あの疑問はたった一瞬の気の迷いであったと切り捨て、ヴィルヘルムが焼菓子を手に取っている腕を掴む。
「黒?」
焼菓子を掴んでいるその指ごと口に含むと、彼から吐息混じりの笑みが溢れた。