人を愛した神と、神を愛した人の話0

神六です。過去にオフ本として出した話の、その後。

以前は恋仲であったあの男もそれまでと同様、後腐れを残しつつ思い出の一つとして記憶も薄れていくのだろう。そのように考えたが、実際は違っていた。
一人で過ごしていた彼が痛々しくて放っておけない。関係を終えたはずの相手にそのような感情を抱いた事は初めてであった。
相手を救ってやろうと、いくら自分が神であるとはいえ思いあがった感情を抱いたと思う。しかし実際は思うような結果を出す事は出来ずに歯痒いと感じていた。だが、あの男は礼を述べてくれたのだ。その時の言葉にこちらが救われた。
彼は今まで別れた相手とは違う。後腐れを感じる事無く、これからも気の知れた音楽仲間の一人として関係が続いていくのかもしれない事を喜ばしく思う。
二度とここには訪れる事もないのだろうと考えていた場所に再び立っている。
元恋仲で今は音楽仲間の一人である男の自宅前。穏やかな思いを抱き、MZDは戸を叩いた。

 

何を思ってあの男は憔悴していた自分に手を伸ばしてくれたのだろうか。
神として他者に救いを与えただけなのかもしれない。それならば他にやり方もあったはずだ。わざわざ慣れない事をしようと、非効率とも言える行動を彼は進んで行った。そのような事を自ら望んで行うような男ではないと認識していただけに、当時は驚いた。
もしこれが自分に与えられた最後の機会であるならば。今度こそ後悔の無いように行動したい。決意を胸に秘め、昼食の準備に精を出す。自ずと行動に移せる理由はあの男にあると思う。思えば、他者に料理を振る舞う事の喜びを教えてくれたのも彼であった。
食事の用意が整いつつあるところで自宅の戸を叩く音が聞こえる。まさに今、考えていた当人を迎え入れなくては。手を洗い、六は玄関に向かった。