のめりこむ

*R-18 ゲオカイ。ゲーム本編開始前の時期。秘密の関係を持ち始めた少し後。カイルがそれまで以上にゲオルグを求める話。

ゲオルグと秘密の肉体関係を持つようになって、数日が経過した。
それまでは異性と夜を共に過ごす事が常であったが、万一の騒ぎに備えて控え始めていた。抜かりない行動に自信はあっても、用心するに越した事はない。自らの欲よりも優先すべき事がある。己の落ち度でフェリドの負担を増やしたくない。

この先は禁欲の日々を送るのだと思っていた矢先。ゲオルグがカイルを気に掛けてくれた。
「自分を戒め過ぎてはいないか?」
詰所にて偶然にも二人きりとなったある日。それとなく訊ねられた。
「……オレが、女性と全く遊ばなくなった事について。そのお話ですか?」
「あぁ。いらん世話かもしれんが。己の息抜きを完全に封じてしまえば、おまえが壊れてしまうんじゃないかと俺は考えている」
確信に踏み込んだ問いに警戒しつつ、頭の中で彼に返す言葉を慎重に選ぶ。
「心配して下さってるんですか?」
警戒心は心の奥底に留めて彼の気遣いを心から感謝していると言わんばかりに、申し訳ないとの気持ちを表情に浮かべて問う。
「あぁ」
ゲオルグは肯定した。本当に、それだけか。こちらの弱味を握って何かをするつもりではないかと、引き続き警戒する。フェリドには申し訳なく思うが、彼を疑わずにはいられない。仮に弱味を握る事が目的でないのであれば。こちらの状況を知って、相手に何の利点があるのか。ゲオルグの狙いが掴めない。
「まー、お察しの通りです。絶対に足はつかないって自信はあるけど……万が一って事があるでしょー? オレがヘマをすれば、フェリド様と陛下の迷惑になっちゃいます」
紛れもない本心を伝えれば、わかってくれるはずだ。結論を述べたのだから相手も満足してくれるに違いない。
「確かに言えている。だが、楽しみを根本的に封じて大丈夫なのか?」
しかしゲオルグは更に踏み込んで来る。考えを誤ったのかと感じるが、信じられない。
「ちょっとは遠慮して下さったら、とっても有難いんですけどー……」
こんな男だとは思わなかった。失望したところで一つ気付く。そのように決めつけるにはまだ早い。彼はフェリドの友人だ。ただの無神経と片付けるには早過ぎる。
「……すまん。おまえの言う通りだ。遠慮を欠いていた」
「意外です。ゲオルグ殿はそういった気遣いが出来る人だと思ってたんですけどねー」
「買い被り過ぎだ。俺だって、後先考えずに物を言う事ぐらいあるさ」
彼本人の言葉とはいえ、そう簡単に納得は出来ずに目前の男を疑い続けてしまう。
「現に今も何かしてやれるわけでもないのに、不必要に訊ねてしまった」
言葉を続けるゲオルグに、己の考えは間違っていると心の中で言われているような気がした。
あれこれと考え続けたところで、彼の本質がわかるわけではない。この話は平行線だと察したので、話を少し変える事にする。
「心配して下さっているのは……嬉しいです」
素直な気持ちを相手に伝えると、微笑んでくれた。
「カイルは、意志が強いんだな」
「急に、どうしたんですかー?」
唐突な呟きに少々驚きながらも、穏やかな様子の彼に合わせようとする。
「深い意味はない。たった今思った事を、考える間もなく言っただけだ」
軽い気持ちで口にしたのだから、言葉通り深い意味はないのだろう。
「ゲオルグ殿だって、その気になればきっと同じく我慢出来ると思いますよー? そんな風にオレを持ち上げて、何が狙いなんです?」
こちらも同じように軽く問う。
からかうように笑みながら様子を見るが、この男の考えは見えて来ない。
「狙い、か。考えた事もなかったな」
たった今気付いたと言わんばかりの表情を相手は浮かべていた。それも、こちらを油断させるために演じているかもしれないと警戒する。そんな事をして何の利点があるのか? 疑問ばかりが押し寄せ、答えが見えない。
「単純に、思ったんだ。俺は王家のためとはいえ、好物を控えるのは難しいだろう。カイルの真似は出来ん」
「ゲオルグ殿は女王騎士になって、まだ日が浅いから、そんな風に考えられるだけですよー。オレはもう、ここに来て長いから。自然とそう感じられているだけかもしれません」
「自然にというよりは、王族を慕うおまえの本質がそうさせているような気がするぞ?」
「それは過剰評価ですねー。不真面目なオレには、もったいないお言葉です。思わぬところで本質に触れられて、内心驚く。これ以上己の詮索をされないように、話を変えようと口を開いた。
「ゲオルグ殿の好きな事は、お一人でも気軽に楽しめるから……そもそもガマンなんてしなくてもいい。オレはそう思います」
「そういうものか?」
「そーです。こっちは他者が絡んでくるから厄介なんですよー。それで? あなたはどうして、オレを気に掛けてくれるんですか?」
心当たりが無いと言わんばかりに疑問を露わにするが、実際は既に見当がついている。恐らく、フェリドにそれとなく頼まれたのだろう。彼は多忙の身であるので、自分の代わりにカイルの様子を見るようにと頼んだに違いない。
「まぁな。特別、俺に何か出来るわけではないが……気になっていた」
建前なのか、本音なのか。前者と考えるのが妥当だろう。友人である騎士長閣下の頼みを、この男はどのように受け止めているのか気になり始める。
「仮に、あなたに出来る事があるとしたら。何とかしてくれるんですか?」
相手が真摯に考えているとしたら、とても意地が悪い言葉と思う。そう感じられてしまっても構わない。何よりゲオルグの心情が気になる故に、好奇心のまま問う。
当人はすぐに言葉を返さず、口を閉ざしたまま腕を組み直す。困らせるような質問だと自覚している。
今も相手は真剣に考えているような素振りを見せているが、内心はどう思っているのだろうか。実際はフェリドに頼まれ、仕方なく気に掛けているのかもしれない。そうだとしたら、少々気まずい。軽薄を全面的に押し出している今の自分をどのように受け止めているのか。
「仮に、あなたに出来る事があるとしたら。何とかしてくれるんですか?」
相手が真摯に考えているとしたら、とても意地が悪い言葉と我ながら思う。そう感じられてしまっても構わない。何よりゲオルグの心情が気になる故に、好奇心のまま問う。
「そうだったなら、力になりたい」
考え抜いた後の答えは、迷いが一切感じられないほどに真っ直ぐであった。
「だが、現状は何の役にも立ってやれん」
確かにその通りなので気の利いた言葉も返してやれない。相手が女性であれば、それは容易に浮かんだはずだ。しかし、いくら同性であろうと己を気に掛けてくれている相手に何も言えない現状をもどかしく思う。軽くあしらってしまえと思えないのは、彼が恩人の友人であるからだ。
「すまんな。心配するだけなら簡単だ。打開策の提案も用意しておくべきだった」
ゲオルグにかける言葉を探していた最中、当人が付け足した。それほどまでに自分を心配してくれていたのか。
(ホントに……?)
表面上は驚きを露わにしつつ心の奥底で自問する。その言葉は建前で、こちらを油断させるのが狙いかもしれない。その理由は何だ。考えれば考えるほど、行き詰まる。
「おまえは俺を買い被り過ぎだ。さっきも言っただろう? 後先考えずに行動する事も、いくらだってあるさ」
何処までが本心なのか。苦笑を浮かべて語る表情の裏では、何を考えているのか気になる。その言葉全てが本心と考えるのは楽観し過ぎだろう。
「そうですかねー。オレの勘、けっこう当たるんですよ?」
試すように返答しても隙を感じ取れない。甘く見られては困る。と、浮かんだ言葉はすぐに飲み込んだ。彼もまた、こちらの様子を見ているのかもしれない。感情を露わにするのは得策ではないだろう。
「とりあえず、ゲオルグ殿がオレを心配して下さってる。それはよーくわかりました」
口先だけは、相手を信用していると言わんばかりに語る。笑みを浮かべ、引き続きゲオルグが何を狙っているのかと考え続ける。
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、充分です」
次から次へと言葉が浮かぶ。我ながら、よく口が回っていた。それは普段と変わらない。
「そうか……」
その一言に、彼はどんな気持ちを込めたのか。
(納得してくれた……?)
最初に浮かんだ考えをカイルはすぐに否定した。この男は、そこまで単純ではない。しかし、わかるのはそれだけだ。
「オレの事、気にしてくれてありがとうございます。そんな風に優しくされちゃったら……ちょっと、期待しちゃうかもー」
ここには自分たちしかいないが、語尾につれて声量を落として囁く。
相手の心根が少しも掴めない悔しさが己をより踏み込ませている。放っておけばいい。その気持ちも確かにあったが、本能はそちらに傾かなかった。
「期待させてしまって悪いが、俺がおまえにしてやれる事は――」
「何一つないって、思ってますか?」
彼の言葉に自分の思いを重ねて囁く。ここで初めて、ゲオルグの表情から戸惑いを微かに感じられる。まさかカイルが、こんな言葉をかけるとは思っていなかったのだろう。相手の意表を突けたと確信し、気分が良くなる。何故、ここまで相手に絡もうとしているのか。自分が思っている以上に欲を絶っている事で追い詰められているのかもしれない。そうでなければ、同性相手にここまで興味を持つ事もないからだ。
「あなたさえよければ……お付き合い、願えますか?」
「俺は構わんが……いいのか?」
「はい。せっかくだから、甘えちゃおうかなーって……。ゲオルグ殿がどんな風にオレを満足させて下さるのかも、気になるし」
引き返すなら今の内だと言わんばかりに、この男を試す。熱を込めた視線を向けても怖気づくような気配はない。
勢いに身を任せ過ぎているとも自覚している。踏み止まろうとしない己に今も戸惑い続けるが、少なからず彼に対して好意的であるから。今はただ、そうだと仮定した。

多少の後悔はあっても溜まった欲を吐き出せるならいいと思った故に正直な話、あそこまで気持ちよくなれるとは考えていなかっただけに戸惑いを抑えきれない。
(まいったなー。まさか、こんな事になるなんて)
一度きりなら冒険してもいいだろう。本当に、軽い気持ちだった。ただ、互いに溜め込んだものを吐き出すだけの単調とも言える性欲処理。この関係を自分はとても気に入っていると思い知る。その一件からカイルはゲオルグを誘って欲を満たす日々を続けていた。
選り好みが出来る状況ではなかったからこそ、ものは試しだと行動したところ。己の想像を遥かに超えていた。それほどまでに気持ち良かった。得られる悦楽に対し、危険が少ない事も魅力の一つだ。同性相手でも満足出来るという自分の新たな一面にも気付いた。
(まぁ……。ゲオルグ殿以外の人とは、ごめんだけどねー……)
と、考えていた時。ふと、思い浮かぶ。
同性、異性などと関係を気にする域はとうに超えてしまっているのではないか。仮にそれが事実であったとしても、この関係性には何の影響もない。カイルは己の心境でさえ、客観的に捉えていた。
それよりも今は、数日前の行為を思い出して浸る。こちらが施す手淫によって、息を詰まらせるあの男の表情。彼のひどく優しい触れ方。それらを思い出すだけで、次の機会が待ち遠しくなる。既に己は重症だと自覚していた。だからとはいえ、考えを改める気はない。この関係を知っているのは互いだけ。罪悪感を持つ事もない。この思いは引き返すのではなく、前に進もうとしている。現状に満足しようとせず、更に気持ちよくなるにはどうすべきかと考える。すると、容易く案がいくつか浮かぶ。すぐに試してみたいと思うが、自分だけの都合を相手に押し付けてしまっていいのかと悩む。行動に移すか移さないかは彼次第だ。次の機会に向けて心を躍らせながら、どのように振舞おうかと今一度考え始めた。

待ち望んだその日は想像していたよりも早くやってきた。
真夜中だからと油断はせず、細心の注意を払いつつカイルはゲオルグの元に向かう。気配を消して動き回る事は慣れている。今日も普段通り、彼の部屋に足を踏み入れた。
「お邪魔しまーす」
潜めた声を掛け、ドアを静かに閉める。ゲオルグは寝間着姿で寝台に腰掛けていた。
「準備万端って感じですねー」
「準備も何も、今日はもう寝るだけだからな」
「それもそっかー」
鎧と装束をその場で脱ぎ、軽装となって寝台に乗る。
「じゃ、こっちの準備はどーですか?」
相手の片太腿に手を置き、焦らすように撫でる。
「いつでも、構わん」
ゲオルグはカイルの方へ向き直し、胡座をかいた。それを合図に互いのものを布越しに触れ始める。
「ちょっと、いいですか……?」
より相手が触れやすいように距離を詰めて同じく胡座をかいた。この男はいつもと同じく優しく微笑みを浮かべている。その笑みを見ると、自分が何をしても許してくれるのではないかと錯覚してしまう。あまりにも都合のいい解釈とも取れるが、直感を信じてみたい。
まずは手始めに性器を手で擦りながら上半身を相手に擦りつける。数日前から考えていた事について、実際に行動し始めた。
最初は控えめに擦り寄り、次第に執拗なものへと変えていく。気持ち良さに身を委ねるだけに留まらず、この男の表情も注意深く窺う。少しでも戸惑いを見せたなら、これ以上の行動を起こすのはやめておこうと考えていた。

今のところ、そのような気配は感じられない。もう少し踏み込んでもいいか。熱に浮かされつつある状況だが、思いのままに動いてはいけないと言い聞かせる。
深く息を吐き、たまらなく感じているとの思いを込めて微笑む。さりげなく様子を注意深く観察すると、ゲオルグの表情に変化が見られた。それはカイルの予想とは少し違い、戸惑うどころか嬉しそうだと感じ取れる。都合の良い解釈が、そう見えるよう仕向けているのか。
「嬉しそうですね……。オレの、気のせいかなー……?」
調子に乗っている心境を隠そうとはせず、素直に問う。
「本当に、気のせいだと思うか?」
質問返しをされるも、もどかしさよりも高揚が勝る。この瞬間を心より楽しんでいるのだと改めて思い知った。
「そうだなー……気のせいじゃなかったら、オレが嬉しいかも」
至近距離で囁き合い、まるで恋仲のようだと錯覚してしまう。心の奥底で思う程度ならば、何の問題もない。カイルは今の心境を受け入れる。
「……気のせいではない」
空いていた彼の手が、こちらの背中に回る。抱きしめられていると気付き、ますます乗り気になる。
「嬉しいなー……」
相手は本音ではなく建前だけで話しているだけかもしれない。例えそうだとしても、そう思わずにはいられない。少なくとも己の言葉は建前ではなく本音だ。そう感じた方が今をより楽しめる。このひと時を最高のものにするために、彼を愛しい者だと錯覚しているのかもしれない。
これはあくまで必要最低限の行為なのだから過度な愛情表現は不要だ。それでも、したくなる。空いている手をこの男の片頰へと伸ばし、掌で包むように触れた後で気の赴くまま唇を重ねた。形が良いと前々から密かに考えていたそれの、柔らかな感触に酔いしれる。
口を離して相手の表情を確かめると、やや驚きを露わにしていた。
「嫌でしたか?」
今更言ったところで、どうにもならない。しかし、ばつの悪さ故に思わず訊ねてしまった。
「そんなわけないだろう? むしろ、その逆だ。あまりにも意外だったんで、驚いただけだ」
「それなら、良かったです」
不快にさせたわけではないようだとわかり、安堵したと同時に気付いた事がある。
(あれ? 今、すごい事を言われたような……)
嫌ではなく、その逆。この突発的な行動をゲオルグは喜ばしく思ってくれているのか。いや、聞き間違いかもしれない。その考えに至った直後。手にしていたゲオルグの性器が、大きさを増した。
「あ……」
思わず声が漏れる。直接言葉で聞くよりも、それはカイルを納得させた。
今度はこちらが驚きを露わにしていると己の性器を取り出され、直に擦られる。
「……んっ」
不意打ちとも言える行為に考えを遮られた。目前の男は、何処かばつが悪そうに見える。
「もしかして……、ごまかしてます……?」
率直な疑問は、考える間もなく言葉となった。
「……そうだ」
あっさり認めた様子に肩の力が抜ける。潔い返答が出来るなら、最初から素直に認めればいいのに。これが以前口にしていた考え無しの行動なのかもしれない。やや抜けた言動に心が温まる。
「どうした?」
思いのまま微笑むと、心底疑問だと言わんばかりの表情を浮かべた。
「可愛いなって……」
ますます相手は疑問を露わにする。その表情が、たまらなく愛らしい。
「よく、わからんな……」
「いいんですよ。オレだけ、わかってれば……」
こちらの心境を探ろうとしてか、相手は何やら考え込んでいるように見える。必死な様子はカイルの心を更に温めた。
「心から納得は出来んが……おまえが嬉しいなら、それでいい」
それも建前か。今も再度考えるが、不思議と心からの言葉だと思える。確信と言うよりは願いと言った方が正しい。彼の嬉しそうな顔、とぼけた顔も好ましい。
(オレ……この人が、好きになっちゃったかも)
思いを確信していると、ゲオルグに頰を撫でられた。先ほどのカイルを真似ているのだろうか。
「俺も、いいか?」
親指の腹がこちらの唇に当てられる。彼からも口づけがしたいのだろう。喜ばしい事実に相手の手中で性器が震えた。
「えぇ。お好きにどうぞ……?」
断る理由はない。本心を伝えるも、何故か戸惑う様子を垣間見た。
「おまえのようではなく、好きなようにやるぞ。それでも――」
こちらが問うより先に理由を教えられる。どうやら気遣われているのだと察し、それは不要との意味を込めて言葉の途中で口づけた。今度は触れるだけではなく、相手の唇を舌先でなぞる。
「こういう事、ですよね……? ここまでしといてイヤなわけないじゃないですか。ね、そうでしょー?」
「……どうやら、いらん心配だったようだな」
思い込みが激しいとも受け取られる言葉であったが、間違いではなかった。密かに安堵していると、肩を押される。あまりにも一瞬の出来事で、いとも容易くこの男に見下ろされた。その後で組み敷かれたのだと、ようやく気付く。
口づけに限った話ではない事に驚いたが、悪くない。
「大胆ですねー」
からかうような言葉をかければ、また苦笑を浮かべる。見れば見るほど、その困ったような笑顔も好きだと気付かされる。
「そうだな。自覚している」
気を取られている内に相手が顔を近づけてきた。迎え入れるために目を閉じれば、間も無く唇が重ねられる。カイルのようにはいかないとゲオルグは言った。それについては、あらかた予想出来ている。思った通り、こちらから仕掛けた口づけとは大きく違っていた。この男は触れ合うだけでは足らないようで、舌先で唇を突いてくる。望みを叶えようと口を開ければ舌同士が絡んだ。されるだけでは物足りないので、自らも舌を擦り合わせた。
「……っ!」
相手の手中にあった自身も同時に擦られ、己が口づけばかりに夢中であったと思い知らされる。
(待って……これじゃ……)
少しずつ彼のペースに巻き込まれ始めていると気付く。自分だけが、よくしてもらうのは不本意だ。思いのままゲオルグのそれに触れ直そうとするが。当人に舌を吸われ、性器を擦られ続けている手を早められた。それにより頭の中が強い悦楽で占められ、指先すら思うように動かせなくなる。
「っ、……あ、ぁ」
やめてほしい。いや、やめてほしくない。どちらも本心だ。心境が上手くまとまらず、口づけの合間に喘ぐ事しか出来ない。
(どうしよう……オレだけ、先に……)
このままでは、相手を差し置いて自分だけが先に達してしまう。気が引けたので抵抗しようとするも、遅かった。
「まっ……て、っ……――!」
ようやっと思いを言葉に出来た直後、彼の手中で吐精してしまう。その後でようやく口を離され、満足そうに笑んでいる本人と目が合った。
ゲオルグが達した気配は感じられない。自分がしなくてはと、それまで以上に力が入らない指先を何とか動かす。彼の性器に再度触れると、やはりまだ硬いままだ。
「あなたも……出して……?」
回らない頭を必死に働かせ、呟く。力なく手を動かす事が精一杯の現状がもどかしい。だから、彼と同時に吐精したかった。
「すみません……力、あんまり入らないです……」
呼吸も整わないまま、隠しきれない心持ちを吐き出す。笑みを浮かべたゲオルグは、何も語らずカイルの手に自らの手を重ねる。
(ダメだなー……この人に、全部任せちゃってる……)
こちらの手ごと、己の手で自身を擦り始めた故に察した。頭の中ではそうだと考えながらも、これといった行動には移せないままだ。ただされるがまま、吐精する瞬間の彼に見惚れるのみであった。

後の始末も全て終えた後。ゲオルグの部屋で雑談を続けていた。今までとは一味違った行為であったが気まずさなどはそれまで同じく、不思議と感じない。
「おまえが気を利かせてくれているからといって、調子に乗り過ぎたからな」
何気なく呟いたに違いない。相手にとってはその程度だと考えていると仮定する。よって、深く気にしてはいけない。そうだと言い聞かせても今の言葉が引っ掛かってしまう。
(気を利かせた。この人は、そうとしか思ってないのかなー……)
寂しい。だが、この思いを口にしようとは考えていなかった。無理に思いを伝えれば、余計な事で気を遣わせてしまう。だから、このままでいい。それがカイルにとっても、一番良いと言い聞かせる。穏やかな雰囲気を装い、会話を続けながらも心境は複雑なままであった。
「ゲオルグ殿のおかげで、欲求不満に手を焼く事はなくなりましたよー」
彼が恋しいと心が訴えている。しかし、気付かない振りを通す。最初はただの妥協案だとしか考えていなかった。それが、こんなにも夢中になってしまうとは。気に掛けてくれた時点で無意識の内に、少なからず打算も心の片隅に置いていたのかもしれない。
「おまえは本当に、気の利く奴だ」
やはりこの男は、こちらが秘めている真の思いには気付いていないようだ。
(ゲオルグ殿……オレ、あなたが好きです)
好奇心の赴くまま、初めて彼に口づけた。己の選択に後悔はない。普段以上に気持ちよかったし、嬉しそうにしてくれたゲオルグを愛しく思う。そんな彼が心底好きだと気付いた。これ以上関われば、今よりも更に深みへ落ちる。それでも構わないと心から言える。
「もー。謙遜し過ぎですってばー」
言葉を返しながら散らかった心持ちを整理し始めた。それは容易に行える。
彼との付き合いも有限なのだから、いかに後悔がないよう過ごせるかが何より重要だ。自らの思いなど関係なく、それよりも身体を満たす事のみ考えればいい。
あわよくばこの恋心に気付いてほしいとの願いも押し留め、カイルは微笑みを浮かべたままゲオルグと過ごす時間を堪能し続けた。