ナナミ祭り2022記念SS

108星ED後の妄想話。
2主の名前:リオウ

キャロを三人で飛び出して、少し経った後。目的地は特に考えず、行けるところまで歩いてみようと三人で決めた。
あてのない、初めての旅。以前の自分たちだったら想像もしなかっただろうとナナミは思う。当時は義祖父と義弟、友人と過ごしていたあの街が全てだった。どこまでも続く外の世界は、自分たちは小さな箱に収まっていたのだと教えてくれる。三人一緒が、心の底から嬉しい。
「街が見えて来たね。今日はあそこでお世話になろうか」
夕日が眩しく、日没まであと少しの時。前方を指差しながら、友人のジョウイが言う。
「うん、そうしよう! ね、リオウ!」
隣を歩く友人に賛成しつつ、反対側にいる義弟の方を向く。すぐに同意してくれると思いきや、本人の表情は浮かない様子だ。
「……リオウ?」
具合が悪いのかとナナミが問うより先に、リオウは話を続けた。ジョウイも当人を心配している。
「なんだか、街の方が騒がしくない?」
「確かに、おだやかじゃない感じ」
「そうだね」
それぞれの意見が一致したと確信した直後、ほぼ同時に三人がその場から街に向かって走り出した。

 

不穏な空気の正体は、魔物の群れだった。逃げ惑う者たちを守りつつ、三人で一掃し終えたのが先ほどまでの出来事だ。
「まさか、こんなことになるなんて……」
ジョウイの言葉に、リオウと共にうなずく。
街の人々から礼をしたいと言われ、宿屋まで連れて行かれた。この街で一番の部屋とやらに通され、室内中央の丸いテーブルに向かって今日の出来事を振り返っていた。
困っている人たちを助ける。それは当然の行いだと感じていたが、盛大に感謝されたのは嬉しい。
「そうだよね。こんな広い部屋、本当にお金は払わないでいいのかなー? わたし、なんか申し訳ないよ……」
「うん。ぼくも、そう思う。とりあえず、せっかくここまで良くしてもらってるんだから……ここにいる間は、何か出来そうなら全力で手伝いたい」
「うん。リオウの言う通りだ。この街の人たちにとって、一番嬉しいのは……」
「今日みたいに、魔物が襲ってこない!」
勢い良く手を上げながら、真っ先に浮かんだ言葉を口にする。机を挟んで向かい側にいる二人は、何故か苦笑していた。その気持ちもわかる。
「言うだけなら、簡単ってことでしょ?」
思った通り、彼らはうなずいた。
「大丈夫。ちゃーんと、考えがあるんだから!」
「本当に?」
リオウは驚きながらナナミの言葉を待っているが。ジョウイは不安そうにこちらを見ている。
「まさか、無茶なことを考えて――」
「そんなわけないって! あのね、シュウさんたちにお手紙を出そうかなって。ここは、みんながいるところからそんなに離れていないから。きっと、力になってくれると思うの」
「そう上手くいくかな……?」
「大丈夫だよ。ジョウイ。みんな、優しい人たちなんだ。困ってる人たちを放ってはおかない」
表情の晴れないジョウイにリオウが言い聞かせる。彼に言われてようやく、少しずつ納得してくれているような様子を見せていた。
「そうそう。リオウがお願いすれば、きっとみんな喜んで動いてくれるんだから」
「ぼくだけじゃなくて、ナナミもだよ?」
「……そうだといいなー。うん、リオウが言うんだから、間違いないよね!」
明るく返答しながらも、泣きたい衝動を抑える。あの戦いで自分は、必要とされていたのだと実感したからだ。都合の良い解釈かもしれない。それでも、義弟の言葉を心から信じたかった。
「よーし! そうと決まったら、さっそくお手紙を書くぞー!」
大いに盛り上がったところで気付く。都市同盟の面々についての話題は、ジョウイの居心地を悪くさせていないだろうか。
「大丈夫だよ、ナナミ。気にかけてくれて、ありがとう」
気持ち全てが表情に出てしまったのか、優しく微笑みながらジョウイは言ってくれた。
「うん。こっちこそ、ありがとう」
今以上に気をつかわせないために、ナナミは努めて明るく振る舞った。
「今日はもう遅いし、手紙を書くのは明日にしよう」
ジョウイの提案に二人で賛成し、ナナミたちは就寝準備を始めた。

 

真夜中、誰かの声が聞こえる。夢を見ているのか。
「……リオウ。ナナミの傷は、もう大丈夫なのか?」
自分のことを言われていると気付き、ナナミはベッドから起きあがらずに眠っているふりを通す。彼らがどんな風に話を続けるのか、気になったからだ。会話に参加してしまえば、本音を隠されてしまうかもしれない。
幼かった時のように、彼らに隠しごとをされるとは思えなかったが。それでも、自分が寝ていたままの方が話しやすいだろう。
「今日の動きを見ていたら……大丈夫そうだった」
「そうだったね。魔物を次々に撃退していた。最後まで元気だったし……ぼくたちに気をつかっている可能性は……いや、それはないか」
なにか、ジョウイの中で思うことがあったのか。リオウに質問し終える前に自己完結してしまった。
「どうして、言い切れるの?」
ナナミも持っていた疑問を、リオウが口にする。早く聞きたい気持ちを抑えながら返答を待った。
「ナナミは演技が上手くないし、嘘もつけない。ぼくたちを大切に思う気持ちがあっても、隠しきれるとは思えない」
「確かに、そうだね」
リオウは納得したようだが、ナナミは不満だ。
(リオウもジョウイも、わたしが起きてるって……少しも気付いていないじゃん)
まさか、わかったうえで話を続けているのか。それこそ違うと確信した。彼らも自分と同じで、そこまで器用ではない。お互い様だと心の中で話しかけた。
「思えば、ナナミにも苦労をかけたな。あくまでぼくの予想だけど……誰にも見つからないとことで、いっぱい泣いていたかもしれない」
「うん。ナナミはみんなの前でいつも笑っていたけど。きっと、無理をしていた時もあったはずだよ」
彼らの思いに触れて涙を抑える。もう少しだけ、二人の話を聞いてみたい。
「ナナミに、たくさん恩を返していきたいな」
ジョウイの優しい声音によって、ナナミの目元が更に熱くなる。
「これからの旅で、いっぱいできたらいいよね。今日はナナミが一番活躍していたけど、次こそはぼくらが……なんて、そんなことは起こってほしくないよね。一瞬でも誰かがひどい目にあうなんてことは、あったらいけない」
リオウの言葉に同意しつつ、話に耳を傾けた。
「たくさん歩いて、平和な場所を探そう。きっと、ぼくたちが思っている以上に世界は広いんだから」
いつか、ティントで自分がリオウに打ち明けた時を思い出した。戦いのない場所へ二人で逃げよう。その内ジョウイも呼び出して、また三人でやっていけばいいと言ったあの頃。今ではもう、遠い昔の話に思える。
時間はかかってしまった。それでも、ここには願った光景がある。これ以上に望むことはないのに、どうして彼らは恩返しをしようと思うのか。どこまでも優しい二人に心を打たれた。
「わたし……幸せだよ」
仰向けで目を閉じたまま、気づけば思いが言葉になる。リオウとジョウイの動揺が、姿を確認しなくてもわかるほどに伝わった。
「い、いつから聞いてたの?」
平然を装うことなく、リオウが問う。
「わたしの傷が大丈夫かって、ジョウイが言ってた辺りからだよ」
身体を起こしながら返答する。それぞれに用意された横並びのベッドに、双方が同じような姿勢でナナミを見ていた。
「わたし……また三人でこうして一緒にいられるのが、本当に嬉しいの。二人が帰って来てくれた以上に、望むものはないから。だから、ね? 恩を返すとか、考えないで。リオウとジョウイの、その気持ちだけもらうから」
室内は暗かったので彼らの表情は、よく見えない。だが、二人の「ありがとう」と言う優しい声から察した。リオウもジョウイも、心からの思いを口にしてくれていると。
満たされているこの日々が、いつまでも続くように。また唐突に奪われてしまうのではないか。そんな不安もある。しかし、今の自分たちならきっと乗り越えられる。
これまで数えきれないほど泣いた分、それ以上に笑っていこう。ナナミは静かに決意した。