今はまだそれぞれの舞台で

ゲオカイ。カイルがゲオルグの自室で就寝前に色々考える話

彼が王子を裏から支えている。それならば自分は王子を表から支えよう。レインウォールでゲオルグと再会した後からカイルはそのように考えるようになった。
表立って行動出来ない状況はとても窮屈だろう。だがゲオルグからはそのような思いは感じ取れない。最後に本拠地に戻って来た時も、他愛無い会話を交わしたのみだ。
『あの街の甘味は種類が豊富だったな』
『隠密中だってのにそっちの方も抜け目が無いですねー。さすがです』
当時の会話を思い出し、ほんの少しだけ物思いに耽る。部屋主が長い間留守にしているこの部屋にカイルは軽装で一人過ごしていた。最後にここでゲオルグと触れ合ったのも、大分前の事だ。
彼が再び単独任務に向かう直前、あの男と交わした会話を思い出す。ゲオルグはカイルに『あいつらを頼む』と告げた。任務についてを重点としながらも王子たちを気にかけるのはゲオルグらしい。その優しさにかつて自分も惹かれたのだ。
『はい。任されました。ついでにこのお部屋の留守番につきましても、お任せくださーい』
『たのもしいな』
こちらを信頼していると言わんばかりの優しい笑みを思い出し、カイルは心を温める。ほんの少しだけあの男に思いを馳せるが早々に切り替える。ただ彼に焦がれながら待ち続けるだけでいられるほど、自分は暇ではないのだ。
今も単身で戦うゲオルグを思い描きながら、自分がすべき事を改めて考える。現状は特に大きな変化は見られない。それならば引き続き己は普段通りの振る舞いで場を和ませようと結論を出した。
(そういえば……ロイ君は、この軍に慣れてくれたかなー)
寝床に身体を横たえながら影武者として仲間になった少年の姿を浮かべる。サイアリーズやリオンには難色を示されそうだが、王子の姿に扮したロイをゲオルグにも見てもらいたい。恐らく彼も一度は騙されてくれるだろう。驚くあの男の姿を想像しながらカイルは目を閉じた。当分は不可能であると理解している。だがそれでもゲオルグと再び同じ戦場で剣を振るいたいと密かに願うだけなら許されるだろう。今はまだそれぞれの舞台で別々に戦う日々が続く。
明日はロイの元に出向き、彼が気になっているリオンの事について話をしながら手合わせでもしよう。そのように考えながらカイルは眠りに就いた。