女王騎士剣技の日2022年記念SS

ニルバ島到着から海賊退治までの間。
ゲオルクとカイルが、こんなやりとりをしていたらいいなとの妄想文。
CP要素無しです。

ゲオルグは久々に王子たちと行動を共にすることになった。太陽宮を追われ、レインウォールに身を置いていた頃以来だ。彼らの役に直接立てるのは嬉しいが、こんな形で大切な友人の故郷再訪とは。同時に複雑な思いを心の底で抱きながらも、初めての出国に心を躍らせている王子とリオンを見守る。楽しんでしまうのは申し訳ないと少し前に語っていた彼らは、相変わらず心優しい。今だからこそ、心がある程度穏やかな時は二人に笑っていてほしかった。その願いはカイルも同じく考えていたとわかる。
共に海を渡った彼はニルバ島に到着した直後、単独行動を取った。
『ちょっとそこまで、新しい出会いを求めてきまーす』
上機嫌で足取りも軽い様子のカイルに、王子とリオンは苦笑していたが。ゲオルグは彼の狙いを察する。自らが率先して楽しむ姿勢を見せることで、二人の気持ちを和らげたかったに違いない。今までもこのようにして、彼らの心を護っていたのだろう。
ゲオルグは土産屋に入ると言った王子とリオンを先ほど見送り、店の近くで待つ。周辺は穏やかな雰囲気で満ちていた。しかし、何やら灯台の方向から不穏な様子が伝わる。部外者の自分たちは、何処まで首を突っ込むべきかとゲオルグは考え始めた。
(力になれそうなら、恩を売って交渉の役に立たせてもいいが……そんなことをするまでもないか。提督にとって、あいつは――)
大切な存在であると実感する。先ほど王子がスカルドと初めて顔を合わせた時に、ゲオルグは確信した。
「王子とリオンちゃん、少しは肩の力が抜けましたかねー?」
不意に背後から声が聞こえ、振り向く。今まで単独行動をとっていたカイルが目前に立っていた。
「あぁ。とても穏やかになった。それで、おまえの方はどうだったんだ? 新しい出会いとやらは見つかったのか?」
彼の意図には気付いていない振りを通し、軽い雰囲気で問う。
「もしそうだったら、こんなに早く戻って来てはいませんよー。それに、今回は遊びにきたわけじゃないし……ほどほどにしておきました」
と、カイルは語るが。恐らく建前なのだろう。ゲオルグが当初に思っていた通り、王子とリオンの緊張を和らげるために軽率な男を演じた。
「ところで、灯台の方が騒がしいですねー。あとで行ってみます?」
「そうだな」
状況把握は大事だ。彼に同意した直後、店から王子とリオンが出てきた。二人とも楽しそうな表情を浮かべている。肩の力も大分抜けているようだ。
「いい笑顔ですね。王子も、リオンちゃんも」
その声は、とても小さかった。ゲオルグにしか聞こえないように調整したように思える。
「カイルのおかげだな」
同じく小声で話しかけると、彼は何の話かと言わんばかりの表情を浮かべた。とぼけている振りをしているのだろう。
「ゲオルグ、お待たせ。カイルも戻ってたんだね?」
「ゲオルグ様、待ってて下さってありがとうございました。カイル様、おかえりなさい」
「うん、ただいまー」
カイルは王子の言葉を聞き、笑顔を見せた後でリオンに手を振った。
「新しい出会いは見つかりませんでしたー。また、次の機会に託しまーす」
彼らが何かを言うより先に当人は底抜けに明るく、それまでの経緯を話す。相変わらず二人は苦笑している。ゲオルグは彼らの誤解を解くべきかと考えるが、それはカイルの本意ではないと察したので自分も周囲に合わせて笑った。
「それはさておき、灯台の方が騒がしい。穏やかな様子では無さそうだが……行くか?」
王子の反応は予想済みのうえで、あえて問う。
「もちろん。見過ごせないからね」
力強く肯定する彼を頼もしく思いながら、ゲオルグは一行と共に灯台へ向かった。

 

つい先ほど、成り行きで海賊退治を手伝うことになった。ベルナデットには何度も頭を下げられたが、その度に王子は大丈夫だと返し続ける。二人の力になれて、心の底から嬉しいと言わんばかりの表情だ。
いたたまれない彼女の気持ちも、ゲオルグは理解していた。身に憶えがあり過ぎる。自分も昔はフェリドに連れられて、様々なことに巻き込まれた。当時の懐かしい記憶を頭の片隅に起き、王子を見守る。必ずやり遂げるとベルナデットに語る少年の堂々とした様子に、フェリドの面影を見た。彼の隣にいたリオンも、同様に張り切っている。しかし、二人は先ほどまで船酔いに悩まされていた。本調子ではない可能性あるので、目を離さずにいたい。海賊たちの元へ向かっている最中、隣を歩くカイルにも協力を頼もうと思う。ゲオルグが言わずとも、彼も同じく考えているかもしれない。だが、意見を交わすことは大事だ。声をかけようとすると、当人は何やら難しい表情を浮かべていた。
「何か、考え事か?」
思わず訊ねると、心境を隠す様子もなく彼はゲオルグの方へ顔を向ける。
「いやー、大した話じゃないんですけど……」
王子とリオンを待っていた時のように、この男は声量を抑えて話を始める。聞き逃さないように注意しながら耳を傾けた。
「なんか、初対面な感じがしないんですよね。不思議だなー」
「そうか」
当たり障りのない返答の最中、さすがだと心の中で感心する。カイルは、スカルドとベルナデットについて語っていると察した。
「やっぱ、ゲオルグ殿はすごいなー。オレは一言も、誰とは話してないのに。わかってくれるんですね?」
「何となく言ったことが、偶然当たっていただけだ」
王子たちの少し後ろを歩きながら、会話を続ける。
「そうなんですか? ゲオルグ殿、何か知ってるって思ったんだけどなー」
「そうか? そんなつもりはないんだが」
軽い雰囲気で返答するが、それだけで彼が納得してくれるか。確かに、カイルの意見は正しい。しかし、今は折り入った話をしている場合ではない。相手も理解していたようで、それ以上追求する気配は感じられなかった。
「そっかー。じゃ、オレの勘違いですね。すみません」
「謝らなくていい。大した話ではないからな」
むしろ、それは自分が彼に告げるべきだ。否定も肯定もしない曖昧な反応を容認されているのだから。カイルは、ゲオルグに合わせてくれているのだと信じて疑わなかった。この件に関しては、日を改めて話そうと思う。
「ゲオルグ殿、優しいー」
その言葉はカイルにこそ相応わしいと心の中で呟きながら、先ほどから気になることがある。
「カイル」
「はい、なんですか?」
思わず名を呼んでしまった後でゲオルグはためらう。曖昧な返答をした自分が、彼に何かを問うのは都合が良過ぎるのではないか。
「……気をつかわなくていいですよ。言いかけたなら、ちゃんと話して下さい」
言葉を続けようとするより先に、きっかけを与えられた。やはり、この男の懐は深いと実感しながら肩の力を抜く。
「俺も、大した話ではないが……」
前置きの後、一呼吸置く。勘違いだとしても、彼なら笑ってくれるだろうと信じられる。
「おまえの機嫌が、とても良さそうに見えるが。何か嬉しい事でもあったのか?」
出会いこそ恵まれなかったものの、他に収穫があったのかもしれない。己の感情を隠していない時点で、問えば話してくれるだろう。深い意味はなく、ほんの興味本位だった。
「そうだと言うよりは……単に、心強いなって。いきなり海賊退治に向かう流れになっちゃったけど、ゲオルグ殿が一緒なら安心です」
思った通り、教えてくれる。しかし、その返答までは予想出来なかった。とても嬉しいことを言ってくれる。
「それなら、俺も同じく考えていた。どこぞの海賊に負けるつもりはないが……カイルがいるなら、より確実だ」
改めて言葉にすると、自分も彼と同じ気持ちであると実感した。
普段は表立って行動が出来ないからこそ、堂々と王子を護れる今が誇らしい。カイル以上に自分は機嫌が良いとも自覚する。
「そうだ。海賊退治ってことは……ついに、オレたちの協力攻撃をお披露目出来そうですね?」
「あぁ。大分前に完成しておきながら、使う機会が無かったからな」
「じゃあ、積極的にやっちゃいましょー」
「そうだな」
同意すると、彼は更に上機嫌そうな笑みを浮かべた。
「合わせるのは久々だからなー。ゲオルグ殿の足を引っ張らないように、頑張らないと」
「それはむしろ、俺の方だろう? ここ最近は単独行動で、集団戦闘はあまりにも久しい」
「そんなー、謙遜し過ぎですー」
困ったと言わんばかりの反応だ。しかしゲオルグは、己の考えを曲げるつもりはない。以前は謙遜どころか慢心して、フェリドの世話になったのだから。いつか機会があれば、その話もカイルに聞かせたい。ささやかな願いが浮かぶ頃には、灯台のすぐそばまで来ていた。