決戦前の思わぬ一息

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ゲオルグ×カイル  
時期は始祖の地攻略中。本拠地のゲオルグの部屋で二人がイチャつく話。

始祖の地にて、遺跡内進行に一同が手こずっていた。ただでさえ強い魔物に手を焼いているのに、ゴドウィンの兵や暗殺者に容赦なく道を阻まれている。暗殺者は全て烈身の薬を飲んだ状態で現れるので厄介だ。
いよいよ相手側もそれだけ追い詰められていると、ゲオルグを含めた面々が実感していた。大人数での行動なので、中には寒さや暗殺者との戦いに慣れていない者もいる。負傷した者たちの手当てと今後に備え、改めてアイテムの補充と装備を整えるべきと満場一致で決まった。そんな猶予はないと当初は誰もが思っただろう。しかし、太陽の紋章は敵の手中なので油断は禁物である。心苦しくは思うが、休息と補給は必要だ。よって、わずか数日の間に全て整えて再出発と決定する。
ゲオルグはカイルと共に怪我人の護送に就く事となった。その間、同パーティのツヴァイクは無理のない程度に遺跡の探索をすると言う。二人を護送役に推薦した時は、彼なりに負傷した面々を気遣っているのかと思った。だが、実際は単独での遺跡探索が目当てだろうと察する。態勢を立て直した後で自分たちが目指すべきはマルスカールと太陽の紋章のみであるから、探索ばかりに時間を割いている猶予は無い。

本拠地まで戻って負傷者を医務室に連れて行き、必要な物を買い揃えたその後。ゲオルグはカイルと並び、自室のベッドに腰掛けて小休憩を取っていた。
「こーゆー時こそ、焦っちゃダメなんですよね」
その言葉はゲオルグにと言うよりは、カイル自身に言い聞かせているようだと察する。
「そうだな……」
穏やかに返してはみるものの、カイルの心境を思うと少々もどかしい。あの時護れなかった太陽の紋章について、この男はただならぬ強い思いを抱いている。本当に最後の戦いとなる太陽の紋章奪還パーティに立候補していた彼から強い意志と覚悟を感じていた。
「ゴドウィンも追い詰められてる。ここでオレたちが焦ったら、足をすくわれちゃいますよね」
今を落ち着いて過ごせるのもカイルの強さ故だとゲオルグは思う。彼の心境全てを掌握しているわけではないが、それまでと変わらず穏やかに話している様子から判断した。
「ここまでくれば、今度こそ大詰めだな」
戦いの終結を確信しながら呟く。しかし最後の戦いの前に、またここに戻って来るとは。全く想像していなかったわけではないが、やはり少しは驚く。決戦前に勝つ為の息抜きと思えば、これほど有り難い話はない。微笑むカイルの片頰を撫でながら思う。
「長かったなー……ここまで」
頷いた後、カイルに両頰を触れられる。
「あったかい……」
「おまえこそ」
微笑み合っている最中、カイルは言葉を続けた。
「始祖の地は寒かったからなー……人肌が恋しいって思ってたんですよ」
「人肌では手に負えん寒さだったと思うが……」
率直な思いを口にすると、カイルが苦笑する。そうさせるような事を言った覚えはない。言葉にする前に視線で訴えれば、この男は口を開く。
「鈍いなー。それとも、わざとですか?」
悪戯めいた彼の様子から意図を感じ取れた。
「そういう事か」
思いのまま口にしながらの確信だ。自分は相手に誘われている。
「白々しいですねー。ちゃっかり鍵を閉めてたの、見てましたよ」
からかうような口調で言われた。思えばそうだったと、カイルに言われてようやくゲオルグは気付いた。無意識だった行動に少々驚くが、理由はすぐにわかる。
「習慣づいていたからな」
すかさず伝え、当人の唇に自らの唇を重ねた。

簡単に命を落とすつもりはないが、だからとはいえ無事で済む保証はない。今までその思いで戦い続けてきた。最後までその意思は変わらない。自分も相手も同じ事を考えている。特にカイルは、今も心の奥底で太陽の紋章奪還について考えているに違いない。それを踏まえて、こんな事をしている場合ではないと当初は思うが。彼に誘われた事は非常に好都合だと感じてしまう。今までの考えは全て建前だったのかと言わんばかりに、己は欲に忠実だった。これが最後になるかもしれないが、とはいえ相手に負担を背負わせ過ぎないように愛しい彼を抱く。寝台に組み敷き、彼を抱き潰してしまわないよう注意を払う。熱のこもった相手の視線は、気を抜けばたやすく理性が完全に削がれてしまいそうだ。気を強く持ちながら、内にあるそれを擦りつけた。
紋章相手となれば魔法を使えるカイルの力は必要不可欠となる。自分の理性をある程度残した行動は間違っていないと考えるが、この男は不本意そうにしていた。
「手加減……してますね……?」
緩やかに動いていると、カイルが不満を口にする。
「よくないのか……?」
「っ、そーじゃない、けど……」
手加減しているといえど、少なからず相手を気持ちよくさせる自信はあった。弱い箇所を焦らすように擦れば、彼は甘い声をあげながらすがりつく。抱いたそれは思い込みでないと安堵した。
「不満があるなら、聞くぞ」
と、質問はするが動きを止める事はしない。
「手加減、出来る余裕……あるの、ずるいなーって……」
「余裕か……。そんなつもりはないんだが」
「っ、うそ、だ……っ」
今にも動きを早めてしまいたい衝動を抑え、自身を少し引き抜いてまた奥を軽く突こうと腰を打つ。気に入らないのはわかっている。それでも今のカイルは気持ち良さそうにしながら息を漏らす。現状から、やはり自惚れでは無いと確信した。それなりに彼を気持ちよく出来ている。
「決戦の前に、大事な魔法要員であるおまえを遠慮なく抱くわけにはいかん」
「そりゃ……そうかもしれませんけど……っ」
納得出来ない様子は予想通りだ。卑怯と自覚したうえで、ゲオルグはカイルの弱いところをそれまでよりも執拗に擦る。
「俺の欲だけを優先して、おまえを独占する。そんな事は許されない」
相手の指にこちらの指を絡めて、それまでと同じ調子で動き続けていた時。カイルが何かを考えているような仕草を見せた。
「まだ、言いたい事があるのか?」
それを聞き入れるかどうかはさておき、ひとまず話を聞こうと思う。
「独占……したいですか? オレのこと」
熱に浮かされながらも、ゲオルグを試すような言い方をしてくる。
「したいに決まっているだろう?」
ためらわずに告げると、満面の笑みを浮かべられた後で抱き寄せられた。
「嬉しい……っ」
耳を舐められながらの囁きは自身が反応してしまうのに充分過ぎる威力がある。カイルの甘い声に脳が直接犯されるようだ。
「ん、これだけで……感じちゃったんですか……」
大きさを増し、内をそれまでよりも圧迫させてしまった事で当人は息を漏らす。熱に浮かされているゲオルグを察していたのか、相手はより甘さを増した声で問う。無意識ではなく意図して行っていると理解出来た。熱い息と声に目眩を感じる。
「おまえにとってはそうかもしれんが、俺にとっては重大だ。……わかっていて、訊いているんだろう?」
やられているばかりは性に合わない。彼も今より熱に浮かせてしまおう。その狙いを含め、腰を掴んで抱き寄せる。
「はいっ、あ……これ、すご、い……っ、きもち、ぃいっ」
より深く繋がれば、肯定の後で声をあげられた。この男を余す事なく愛そうと抱いている中、心の片隅で一つの考えが浮かんだ。
もし、やるべき事を終えたなら。その時は今度こそ彼を独占したいと言えば、どんな顔をするだろうか。先の事などわかるはずもないのに、それに思いを馳せてしまうとは。気が緩んでいるのだと戒めを込めて気を引き締め直す。その直後、欲に塗れながらも不思議そうにしているカイルと目が合う。頭を撫で、何かを問われる前にその口を自分の口で塞いだ。我ながら、らしくもない考えを浮かべてしまった事での動揺を相手に悟られる前に捨て置く。それは容易な事。愛しい相手を抱いているのだから、戸惑いなどによって冷めかけた一瞬の思いはまたすぐに熱くなる。
「全て終えた後……もう一度抱く」
熱に浮かされきった今は、思いを胸中に留めておく事が出来ない。弁解も訂正もせずに彼を緩やかに抱き続ける。
先ほどの言葉に納得してくれたのか、その後カイルが不満を訴える事はなかった。