色鮮やかな日々

仲間になって間もない頃のロイが、本拠地で過ごしながら様々なことを考える話。

フェイロンとフェイレンを助けようと、勢いで王子の影武者を引き受けた数日後。ロイは改めて、自分の思いを確認する。嘘は少しもついていない。巻き込んでしまった二人のためなら、なんでも耐えると誓った。その片隅で、どうしてもリオンに認めてもらいたいとの願いも同時に存在している。
(あの時のあんたは、王子さんとオバさんに合わせて言ってた気しかしねえ)
人の気持ちは、そう簡単に変わらない。王族に仕える身である彼女はどんな感情を持っていても、彼らに従う方を選ぶとの考えが自然だ。彼女と知り合って日はまだ浅いが、それぐらいは理解できた。彼女に心から、王子の影武者として認められたい。その一心でロイは日々の稽古に励んだ。
毎日、慣れないことの連続で辛いと思う時もある。それなりに使いこなせていると自覚していた三節棍も、王子のように扱うとなると話も大分変わってしまう。演技と武術、二つの特訓は簡単ではない。一日でも早く影武者として認めてもらうため、日々挑む。
苦しいと何度も感じるが、楽しいとの気持ちが何より強かった。王子に変装し、彼を演じている間は自分以外の誰かなれる瞬間が気持ちいい。ただ姿形が似ているだけではないといわんばかりに、王子として振る舞うと周りは驚く。
山賊まがいの騒動を起こした日々が色あせて見えるほど、今は周囲が色鮮やかに映っていた。
「あ、ロイ君。お疲れ様です」
サイアリーズの演技指導を夜遅くまで受け、自室に戻ろうとしていたある日。当時から密かに恋心を抱いているリオンが声をかけてくれた。
「あぁ。一人なんて、珍しいな?」
「はい。王子は先ほど、お休みになりました」
一日の終わりに彼女と会えたことで、ロイは今日が最高だと心から思える。
「そっか。あんたもお疲れ」
「ありがとうございます。でも、わたしは少しも疲れてませんよ?」
「頭が固いなー。労いってヤツだっての。それなら、オレだってまだまだいけるぜ? けど、オバさんが今日はここまでって言うからさ」
「ロイ君。サイアリーズ様をそんな風に呼んでは、不敬罪ですよ?」
「わかった。次から気をつける」
心にもない返答をしながら、リオンとの会話を楽しむ。彼らには悪いと思うが、今のロイは毎日がとても充実していると感じていた。
「……ありがとな」
「え?」
「なんでもねえよ。そんじゃ、おやすみ」
ロイはその場から早々に去りながら、彼女への思いを募らせる。
最初はリオンに叱られたことがきっかけだった。そこからロイの心に火がつき、彼女に認められたいとの思いが今もあるから日々励める。
おとなしく捕まっていれば、何も気づかないまま終わっていただろう。大きな転機を与えてくれたリオンにロイは感謝した。