覚悟を連れて前を向く

ロードレイク再訪時。王子がリオンと共に行動しながら決意を抱く話。拠点をラフトフリートに移したところまでのネタバレ描写あり。
幻水5発売18周年、おめでとうございます!

どんなに戸惑っても、起こってしまったことは変えられない。
なぜ、王位継承権を持たない自分に黎明の紋章が宿ったのか。その疑問が常につきまとっているが、今度こそロードレイクを救うために進み続けなくては。
自らに言い聞かせ、王子はリオンと共に現地へ向かう。街が見えてきたところで足を止めた。
「王子?」
リオンが不思議そうに問う。彼女の疑問に応えるため、間が空き過ぎる前に口を開く。
「リオン。ここから先は、ぼく一人で行く」
本人は受け入れてくれないと予想していたが、それでも言っておきたかった。
「やっぱり……、許してくれないよね」
思っていたとおり、悲しそうな気配をのぞかせている当人に声をかける。
「王子は……、非難を受けるのは自分だけでいいと、考えているんですよね?」
「……うん」
昔からそばにいてくれる彼女は、王子の考えを簡単に見抜いてしまう。嘘をつくのは不本意なので素直に認めた。
「どうか、わたしにも背負わせて下さい」
迷いが少しも感じられない様子で語る様子が、とても頼もしかった。そんな彼女に王子は救われる。
(駄目だな……。ぼくはまだ、護られるだけの存在から抜け出せていない)
嘆いている暇はないと、すぐに気持ちを切り替えた。
「ありがとう」
リオンは嬉しそうに笑ってくれる。これから非難を浴びに行くとは思えないほど穏やかだ。彼女と共に、王子はロードレイクへ足を踏み入れた。

 

タルゲイユの話を聞いた後、次は病院に向かおうと街中を歩く。直接的な非難は無いものの、苦情の囁きが所々から聞こえた。
ゴドウィンも王族も共倒れになればいい。王族に加担するぐらいならここで死ぬ方を選ぶ。自分たちを利用するためだけに救いたいと、都合の良い話を持ってきたに違いない。無罪だったロヴェレ卿たちを殺しておいて、よく顔を出せたものだ。
辺りは王族と貴族への憎悪であふれていた。
「……大丈夫だよ」
心配そうな様子のリオンを安心させようと、穏やかに声をかける。
「リオンは?」
「はい。わたしも、みなさんの声を聞いたうえで、ロードレイクを助けるお手伝いがしたいんです」
彼女の返答後、どこからか渇いた笑い声が聞こえる。
王族の荷物でしかない者に何が出来るのか。
続けて足された言葉の後、リオンの動揺が伝わった。
「どうして……」
声をわずかに震わせながら彼女は呟く。幼い頃から王子は、一部の貴族たちから今のような陰口を囁かれていた。そのたびに当人が感情を必死に抑えた事は忘れられない。
心配をかけまいと、両親や妹に隠れて涙を流していた当時。リオンは王子を見つけて一緒に泣いてくれた。
これ以上、彼女を悲しませたくない。足を止めて一呼吸置いた後、王子は街の人々に向けて声を張った。
「あなた方の思うとおりです。ぼくは王族に生まれながら王位継承権を持たず、なんの利用価値もない存在だ」
「王子!」
同じく立ち止まったリオンが声を荒らげる。自分を気づかうからこそ感情をあらわにし、戸惑いを隠しきれていないとわかった。
引き続き大丈夫だとの思いを込めて微笑むと、不安そうではあるが何も言わずに王子を見守ってくれる。その優しさを有り難く思いながら、改めて言葉を続けた。
「ちっぽけな存在のぼくですが、王家の一人として、過ちを認めたうえでロードレイクを救いたい。それが嘘偽りない、ぼくの本音です」
自分に成し遂げられるのか。いや、達成する以外考えてはいけない。そんな思いを抱きながら臆せず話した。
「あなた方を戦いに加担させるためではありません。それだけは信じて下さい。ぼくがしたいと望んでいるから行うだけです。偉そうに語ってしまって、ごめんなさい」
その場で頭を下げた後、歩き始める。
「すみませんでした。王子は冷静なのに、わたしは動揺してしまって……」
同じくリオンが後に付いて行きながら、王子にしか聞こえない声量で話す。
「謝らないで。リオンがそばにいてくれるおかげで、ぼくは落ち着いていられるんだから」
こちらも声の大きさを相手に合わせ、静かに返答する。
堂々としていられるのも、リオンの影響が何より強い。当初は一人でロードレイクを訪れる気だったが、結果的には彼女を連れて行くことが最善だったと実感する。
(リオンを悲しませたのは、心苦しいけどね……)
罪悪感は簡単に振り切れそうにないが、当人が嬉しそうに微笑んでいる現状が救いだった。
(それにしても……)
王子は言葉を一度も詰まらせず、話を終えた自身に驚く。
リオンがそばにいてくれたからこそ、今も心を強く持っていられる。彼女へ、今まで護ってくれた分の恩を返したい。そのために、まずは前に進み続けるべきだと考えた。
「絶対に、助けようね」
「はい。必ず、やり遂げましょう」
それまで恐れ多いと言わんばかりのリオンだったが、今は力強く王子の言葉に同意してくれる。
毅然とした態度を保ちつつも、不安を完全に断ち切れたわけではない。自身に立ち止まるなと何度も言い聞かせる。
(思い悩むより先に……やるべきことがあるだろう?)
王子は黎明の紋章が宿る右手を強く握った。