重なる不測

*R-18 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さいますようよろしくお願いいたします。いわゆるお薬ネタ。

 

立て続けに課せられていた任務もようやく終わりを向かえる事が出来た。
本拠地へ帰還し、ルクレティアへ報告を終えた後。ゲオルグは自室へ向かう。
任務も今のところは落ち着いているとの事で数日は寛ぐ事を許された。それを自室で待っていてくれているであろうあの男に打ち明けたら、きっと喜んでくれる。
危うく頰が緩みそうになるが難なく抑え込み、無表情を装う。
思えばこれまで恋人らしい事がほんの少ししか出来ていなかった。なので、この数日はうんと彼を甘やかそうと心に決める。
自室ではあるが一応ドアを数回叩いた後、部屋へ足を踏み入れる。
「カイル。戻ったぞ」
「はい。お帰りなさい、ゲオルグ殿」
ベッドに腰掛けていた恋人はその場から立ち上がり、ゲオルグの元へ歩み寄る。
「今回も、大した怪我も無さそうで……ほんと良かったです」
「おまえの方こそ」
「オレは大丈夫ですよ。こっちは単独じゃなくて、複数人で行動していましたし」
どちらからともなく腕が伸び、互いを抱きしめる。この温もりを感じる事でここに戻る事が出来たのだと改めて実感した。
「この数日、休暇をもらう事が出来た」
カイルの髪を梳きながら囁くと彼がやや勢い良く顔をあげてくる。
「ほんとですか?」
「あぁ」
隠す事なく浮かべられた笑みからはカイルが喜んでくれている事が伝わって来た。そんな彼につられ、ゲオルグも頰が緩む。
「だから、おまえに甘えてもらおうと思う」
「嬉しいなー。じゃ、明日からを楽しみにしてます」
「……?」
正直、カイルさえよければ今からでも……と、考えていたので。少々戸惑う。
「ゲオルグ殿。出先だとあまり眠れなかったでしょう? だから今夜はゆっくり休んで下さい。オレを甘やかすのは、それからです」
こちらの頰を撫でながらカイルは穏やかに語る。確かに彼の言う通りであった。任務中は隠密が大前提だ。なので睡魔に身を委ねきる事はあってはならない。
「そうだな。おまえの言葉に甘えるとしよう」
「そうして下さい。あぁ、添い寝でもして差しあげましょーか?」
「頼む」
軽い口づけを交しあった後、ゲオルグはカイルの頭を撫でた。

翌朝。カイルの腕の中で目が覚める。幸せを噛みしめつつ、彼の額に唇を押し当てた。
「ん……おはようございます」
「起こしたか?」
「はい。でも、気にしないで下さいね。昨日はよく眠れました?」
「あぁ。おかげ様でな」
「よかった」
互いに微笑み合い、身体を起こす。今日から数日間この男とどのように過ごすか。そのような事を考えつつ、ゲオルグは頰をゆるませた。
「そうだ。レツオウ殿の所から、朝ご飯をもらって来ますよ。なので、ゲオルグ殿は寛いでいて下さい」
「わかった」
これではまだこちらがカイルに甘えている。朝食を終えた後にでも、昨晩から今まで受けた施しを自分なりに返したい。そう思っていた。

「ゲオルグ殿ー……。仕方ないですって。オレなら、全然大丈夫ですからー」
「……」
返す言葉が見当たらない。そもそも休暇を与えられたからといえど、それを安易にカイルへ伝える事は得策ではなかった。
無言で旅支度を整えているなか、カイルの優しさに心を痛める。
「それにしてもまさかの事態ですよね。急遽、任務が入っちゃうなんて」
穏やかに語るカイルは普段通りの彼そのものであった。気を遣わせてしまっている事は確かだ。
このような事になるのであれば昨晩の内にカイルを抱いておけば良かったとも思う。
任務には向かうべきだ。それは心から思えている。しかし、だからとはいえ。自らの言動までも許す事が出来るといえばそうではない。
「俺はおまえとの約束を、違えたと言っても過言ではない」
口にしてみて気付く。自分はこの休暇を何よりも楽しみにしていたようだ。まるで子供じみた考えに、ゲオルグは隠す事なく苦笑した。
「ゲオルグ殿、約束を違えるのは不本意ですもんね。でも、オレは安心していますよ?」
「何故だ?」
「だって、きっとあなたは今回の埋め合わせを絶対にしてくれようとするでしょー? だからまたここに帰って来てくれる。オレにとって、こんなに嬉しい事はありませんよ」
カイルは先を見据えてくれている。そして、こちらの考えもとうに見透かしていて。いい加減に気持ちを切り替えようとゲオルグは思う。
「必ず帰る」
「そうして下さい。その時は、そうですね……オレのお願いを一つ聞いてもらおうかなー」
微笑みを交えならがカイルは言う。その笑顔は子供のように無邪気なそれを思わせた。
「あぁ、約束だ。今度こそ違えたりはせん」
気付けば自然と言葉になっていた。
「はい」
願いの要求をする事によってカイルはこちらの罪悪感を、完全に払拭しようとしてくれたのかもしれない。もしそうであれば絶大な効果をもたらしてくれている。
自分はカイルに与えてもらってばかりだ。だからこそ、カイルの言う願いはどのような事でも聞いてやろう。と、ゲオルグは決めていた。

急遽課せられた任務を終えて再び本拠地に帰還した。時刻は真夜中を指しており、本拠地内も静まりかえっている。
数日前と同じくドアを数回叩いた後。自室に足を踏み入れると、ベッドにて身体を横たえていたカイルが上体を起こして出迎えてくれた。
「ゲオルグ殿。お戻りだったんですね」
「あぁ。すまんな。これから眠ろうとしていたんだろう?」
「そうですけど、せっかくあなたが帰って来て下さったんだし……このまま何もしないで寝るなんてのはありえません」
申し訳ないと思いつつも今日はもう眠るだけに留まろう。とは、言えずにいた。先日の出来事がそれなりに応えていたからだ。
しかし欲のままに行動してはならない。カイルと交わした約束がゲオルグの理性を強固にしてくれていた。
「……約束を、聞かせてくれないか?」
ベッドに腰掛けながら問う。すると、カイルの笑みが何処か悪戯めいたものへと変わる。
「媚薬を使ってみたいです」
ゲオルグはただ驚く。まさかそのような事を言ってくるとは。全く予想していなかっただけに、何か返答せねばと思うが言葉が浮かばない。
カイルはこちらを常に気遣ってくれているのだから、何かゲオルグにも利点がある事を要求してくるとばかり考えていた。
それが例えば何であるのか。これと言った予想は出来ていなかったのが現状ではあるが。
「あぁ、誤解しないで下さいね? ただ、ゲオルグ殿に抱かれる事に飽きたとか。そんなんじゃないですから」
内心にて安堵しつつ、引き続きカイルの話へ耳を傾ける。不安要素が削がれた事で何故カイルがそのような要求をしてきたのか、理由について興味が湧いた。
「ゲオルグ殿。いつだってオレを、優しく抱いてくれるじゃないですか。それはすごく嬉しいんですけどねー……。オレとしてはこっちの事を気遣う余裕が無いぐらい、あなたの好きにしてもらいたい時もあるんですよ」
「そうする事でおまえに負担を強いてしまう事は、あってはならない」
常々思っている事を口にすると、カイルは苦笑する。
「ほんっと、お優しいんだから。普通にめちゃくちゃにして下さいってお願いしても、あなたは絶対に了承してくれない。そう思っていました」
「だから、薬を調達したのか?」
苦笑を浮かべたままカイルは頷く。
「オレが媚薬を飲んで必死にお願いすれば……ゲオルグ殿は聞き入れてくれるんじゃないかなって、そう思いましたから」
カイルの考えは理解する事が出来た。この男の要求は自分に出来る事であれば叶えてやろう。その考えは今も変わらずにある。
しかし。こちらが要求出来る立場ではないと自覚していたが、頼みたい事があった。
「そういう事なら、俺が飲む。それでは駄目か?」
「え?」
そのような事を言われるとは予想外だ。と、言わんばかりの表情をカイルが見せる。
「余裕のない俺が、見たいんだろう?」
「まぁ、そうですけど」
「だったら尚更だ。おまえが得体の知れん物を飲んで、苦しむ必要はない」
「ゲオルグ殿。オレをか弱い女の子と錯覚してません? ……でも。それがあなたの望みであるなら、いいですよー」
カイルの用意した媚薬の効力は未知である。だからこそ最初は自分がその効力を知るべきであるとゲオルグは思った。
埋め合わせをすると誓った相手に得体の知れない薬を服用させる事は、出来る事であれば避けたい。
こちらの要求を受け入れてくれた事に感謝しつつ、戸棚に移動したカイルの背中を見守る。どうやらあの場に薬を忍ばせていたようだ。テーブルに置かれた小瓶。それが例の物である事は確認せずともわかる。
同じくテーブルに置かれていた水差しとグラスをカイルが手に取る。水を注ぎ、小瓶の液体を数滴垂らした。それをゲオルグの元へ運ぶ。
「どうぞ」
「すまんな」
「いえいえ。こちらこそありがとうございます。不謹慎かもしれませんが、これからゲオルグ殿がどうなっちゃうのか……楽しみです」
グラスを受け取り、水を一気に飲み干す。空いたグラスはカイルがテーブルへ戻した。
「少しずつ効いてくると思うんで、とりあえず……」
その先の言葉はカイルの口から語られる事はなかった。続きを話す代わりに彼はゲオルグの唇を己の唇で塞ぐ。それ以上の言葉は不要だ。恐らくカイルも同じ事を考えている。
「あー。久しぶりの、ゲオルグ殿だ」
唇を触れ合わせている合間に微笑みと共に囁かれた。愛しい言葉に伴いゲオルグはカイルに深く口づける。突然の事ではあったが驚く事なくこちらに応えてくれた。
長い口づけを交わしながら互いの服を脱がしにかかり肌と肌を触れ合わせた。結われていないカイルの髪を梳き、先日触れられなかった分を取り戻そうとゲオルグは彼の首筋に顔を埋める。肌に舌を這わせると後頭部を撫でられた。
「埋め合わせ。いっぱい……しましょうね」
耳朶を食まれながら囁かれる。普段よりも脳髄に響く気がするのは先日思うように触れられなかった事のせいか。それとも薬が効き始めているのか。どちらにせよゲオルグは早くもカイルに酔いしれつつあった。

 

媚薬の使用について。最初は断られる事も考えていた。しかしそれはあくまで一つの可能性としてだ。願いを一つ聞く事を承諾してくれたゲオルグであれば、聞き入れてくれる。カイルは確信に近い自信を抱いていた。
当初に思っていた通りゲオルグはこちらの要求を受け入れてくれた。だが、まさか自分が薬を服用すると言いだして来るとは。最初こそ驚いたがよくよく考えれば彼らしい。と、複雑な思いを抱きつつも感じる。自分はそこまで彼にとってか弱く映っているのだろうか。それもまた、少し考える事で納得のいく答えが見つかる。カイルがどうという事ではない。全てはゲオルグの優しさが相手をそうさせているのだ。
一糸纏わぬ姿同士で肌を触れ合わせ、飽く事なく唇を重ね合う。そうしている内に少しずつ彼の異変に気付く。ゲオルグの息遣いが普段よりも荒く感じる。絡め合わせている舌もとても熱い。薬を盛られているのはゲオルグであるというのに、まるでこちらが薬を服用したような錯覚を得た。普段とは少し変わった状況に高揚している。
唇を離して彼の表情をまじまじと見つめると、先ほどまでは穏やかであった金の瞳がやや潤んでいる。鋭くも感じられる視線にカイルは息を飲んだ。
「ゲオルグ殿はお優しいから……最初からオレが媚薬を飲むなんて選択肢は、無かったんでしょうね」
たった今まで考えていた事を口にしながらベッドに置かれていたゲオルグの手にこちらの手を重ねる。その指先からゲオルグも自分と同じく高揚している事が伝わって来た。普段よりもこの男からは余裕を感じられない。その表情に見惚れていると顔を近付けられ、唇を貪られる。
「っ……ん」
更にゲオルグの肉欲を煽ろうと吐息に音を混ぜて吐き出す。口づけの最中、両手で背中や腰を撫で回すと明らかな反応を見せてくれる。ゲオルグを抱きしめる事で腹部に当たる彼の性器もより反応している事が伝わり、カイルは歓喜した。自らの性器を使い、その裏筋を擦り付ける。先走りによる滑りがカイルの肉欲も高めつつあった。
「カイル……っ」
「はい? 何でしょうか」
不意に耳元で吐息混じりに囁かれる。熱が込められたその声に身体が疼く。しかし、あくまで冷静を装いゲオルグの言葉を待つ。熱に溺れるにはまだ早い。理性が機能している間にこの男の姿を目に焼き付け、堪能しておきたいと思ったからだ。
「頼みがある」
「頼みですか?」
「あぁ。こんな事を言える身分では無いと自覚してはいるが……」
「いーですよ。何でも言ってください」
こちらの願いを叶えてくれたにも関わらず、ゲオルグはまだ負い目を感じているようだ。いかにも彼らしいと愛しさを噛みしめる。
「すまんな。……少し、いいか?」
「はい」
相手を抱きしめている状況から離れるように促される。何を言おうとしているのか考えながら従う。
「俺の腕を拘束してくれ」
「どうしてか理由を聞きたいです」
「このままでは欲のままにおまえを犯してしまう。俺にとってそれは不本意だ」
申し訳無いと言わんばかりに語るゲオルグにやはりこの男は優しいと感じる。構わない。どれだけ彼が自分を貪欲に求めてくれるのか、気になるというのに。思いは少々複雑であったが、ひとまずゲオルグの要求を受け入れる事にした。
腕を拘束してしまっては、こちらの一人遊びのようになってしまう事も懸念していたが。
「おまえを欲して……どうしようもなくなっている俺を見ていてくれ」
苦笑を混じえながら切なげに囁くゲオルグを目の当たりにする事で、この状況を受け入れようと思えた。
「わかりました。じゃあ、ちょっと待っていて下さいね」
「……出来ればおまえの私物で頼む。俺のであったら力づくで解いてしまいそうだからな」
「相変わらず、お優しいんだから」
一旦ベッドから降り、クローゼットに向かう。今も変わらず何も纏っていない状態ではあったが今更恥じらうような関係ではない。クローゼットを開けてしまっておいた自らの装束から髪を結う時に使う青紐を手に、ゲオルグの元へ戻る。
「これでどーですか?」
「あぁ、頼む」
彼の背後に回り、後ろにまとめた腕を拘束する。普段とは違う状況にカイルは更に高揚した。少々の寂しさは今も拭い切れそうにないが、これはこれでいいかもしれない。ゲオルグを背後から抱きしめ、肩甲骨辺りに舌を這わせる。
「ゲオルグ殿……解いて欲しかったら、いつでも言って下さいね?」
「…………」
彼からは何の返答もない。本当に最初から最後まで、拘束された状態のままでいるつもりなのだろうか。それならば解いて欲しくなるよう仕掛けるだけだ。ゲオルグの正面まで移動したカイルは先ほどから張りつめている彼の性器に顔を近付けた。焦らしてみようとも考えたが。さすがにそれは酷だと思ったので早々に口に咥えた。
「っ……!」
ゲオルグのそれが大きく反応する。普段よりも明らかな反応を嬉しく思いながら、この男を追い詰めていく。一度、達した方がいいだろう。そのように考えながらゲオルグの様子を窺おうと顔をあげる。
(うわ……その顔、ヤバい)
欲に濡れた隻眼と目が合う。こちらを見下ろすゲオルグは切なげな表情を浮かべている。カイルを欲している事が伝わって来るが、拘束を解けと言うような気配は感じられない。
先走りを舐めとり、わざと音を立てて吸い付くとゲオルグのそれはカイルの口内で質量を増した。先ほどから嬉しい反応ばかりを見せてくれるにも関わらず、物足りなさを感じずにはいられない。普段であればゲオルグはカイルの頭に手を置き、撫でたり髪を梳いてくれるのだが。今の状況では不可能である。
頭に触れて欲しい。だが、厳密に言えば触れて欲しいのは頭だけではない。こちらを欲している事はわかっている。だからこそ腕の拘束を解けと命じて欲しい。そして思うがままに自分を抱けばいいと思う。ゲオルグが頼むよりも先に拘束を解いてしまいたい。しかしカイルは寸の所で耐える。それを頼むにはあまりにも早過ぎると考えていたからだ。
今は思いもよらずに起きているこの事態を堪能するべきだ。そう言い聞かせる事でもどかしさを押し殺す。
「カイル……? どうした……?」
「……!」
吐息混じりにゲオルグが問う。こちらが考え込んでいる事を悟られてしまったようだ。何を考えているかまではわかりかねたからこそ、そのような言葉をかけたのだろう。恐らくカイル以上にゲオルグはもどかしい思いを抱いている。それにも関わらずこちらを気遣おうとしてくれている事に彼らしさを感じていた。
(ほんとに、何処までもお優しいんだから……)
何でもないと言わんばかりにゲオルグを見上げたまま微笑んで見せる。その後、彼が言葉を続ける事を封じるため、咥えたままのそれをきつく吸い上げ吐精を促す。
「……っ」
ゲオルグの呻き声を耳にした直後。口内にて精液が吐き出された。ある程度予想はしていたが、吐き出されているものは想像以上の量がある。飲みきれない量が顎を伝って胸元に落ちた。
「すまん……っ」
先ほど以上に切迫した声にこのうえなく興奮する。大丈夫だと言わんばかりにカイルはゲオルグの吐き出したものを、音を立てて飲みこんだ。吐精を終えてもまだ、ゲオルグのものは勢いが衰える様子を感じさせない。改めて薬の効力の凄さを実感した。
「すごいです……。ゲオルグ殿、まだまだ全然足りないって感じですよね」
「あぁ……。盛られているからという事もあるが。久々におまえとこうしていられている。それが一番の要因だろうな」
嬉しい事を言われた。思いを隠す事なく微笑んで見せると相手からも笑みを返された。その表情からは今も熱を抑え込もうとしている事も、同時に伝わる。
「どうです? そろそろ解きたくなってきたんじゃないですか?」
ゲオルグの首に腕を回して距離を詰めて囁く。するとそのまま唇を重ねられ、ゲオルグの舌先がこちらの唇をこじ開けようとする。カイルはそれを受け入れようと薄く口を開けた。あくまで、耐えぬくつもりなのだろうか。ゲオルグを蝕む薬の効力がどれほどのものかはわかりかねたが。こちらが思っている以上の熱をこの男は抑え込もうとしている事は確かだろう。絡められている舌も先ほど以上に熱い。その熱にこちらの方が浮かされているようにさえ思える。
「……不味いな」
「はい?」
「こんなものを、大量に飲ませてしまって……悪かった」
「またそんな事言って。オレは全然気にしてませんからね? むしろ嬉しいです」
心からの思いを告げてもゲオルグは苦笑を浮かべたままであった。
「解く気が無いなら……オレが自分で、するしかなさそうですね」
「…………」
ほんのわずかではあったがゲオルグの表情から、動揺のようなものが垣間見えた気がした。優しい彼の事だ。恐らく、こちらに任せきりにしてしまう事を心苦しく思っているのだろう。
「大丈夫ですよ。さっきも似たような事を言いましたけど、オレはか弱い女の子ではありませんし」
だからこそゲオルグに全てを委ねずとも、事を運ぶ事は出来る。実際はその手で思うがまま内にまでも触れて欲しい。そのような願いもあったがカイルはあえて口にしない事を選ぶ。
「少し、いいですか?」
自らの片手をゲオルグの顔へ近付ける。何を言おうとしているのかそれだけで察した相手はその指を口に含んだ。
「さっきから思ってましたけど。舌、熱いですね……」
空いている手で彼の頭を撫でながら呟くと指先を吸われた。されるがままでは不本意だと感じたので、まだ解されていない後孔にゲオルグの性器を当てがう。腰を使い、その入口に先端を擦り付ければ新たな先走りがそこを濡らす。少しした後、名残惜しく思うがゲオルグの口から指を引き抜いた。
「ゲオルグ殿が濡らして下さった指で、慣らしていきますね」
相手の様子を窺いながら後孔に指を忍ばせる。これはゲオルグの指であるとも、同時に暗示をかけた。まだ、拘束を解いて欲しい気にはなれないのか。物寂しさを押し殺しながら手始めに中指を浅く出し入れし、声をあげて見せた。
「あっ、ぁ……やっぱ、キツいですね……」
少々わざとらしいとも考えたが。ゲオルグのものが質量を増した事を感じ、思ったよりも効果があったようだと思う。わざと見せつけるよう、ゲオルグの目前で表情を恥じらう事なく晒す。正直、自分の指でここまで反応出来るとは思っていなかった。しかし。この指がゲオルグのものであるという自己暗示と、薬によって普段よりも余裕を感じられないゲオルグの表情。それらが効果を発揮してくれている。
「っ……、んっ……」
少しずつ深さを増していき、指も増やしていく。
「っ、ぁ……」
自分の弱いところを掠め、ゲオルグの耳元で喘ぐ。そうする事で内股辺りに当たっていた彼のものがそのまま擦り付けられる。
両手が使えない事はもどかしいだろう。カイルにとっても、それは同じ事だ。あるいはゲオルグ以上にもどかしく感じていると言っても過言ではないと思う。だが、薬を服用している当人よりも先に根をあげる事はあってはならない。それが当初の思いであったが。押し殺しきれないもどかしさが、少しずつその考えを塗り替えていく。
相手が意地でも解くと言わないのであれば、こちらが折れるしかない。都合のいい解釈である事は自覚していたが、この男の燻る思いを解消する事が何より大事である。そのように結論を出す。
(余裕の無いあなたのお顔は……すごくいいですけど。せっかく薬を使っているんだから、我慢しないで楽しむべきですよ。ねぇ、ゲオルグ殿……)
内を解していた指を引き抜き、カイルはゲオルグを抱きしめる。腰の辺りに今も先走りを零し続けている彼の性器が当たり、息を漏らす。
「カイル……?」
「ゲオルグ殿……すみません」
「何故、謝る?」
その疑問はすぐに解消される事となるだろう。ゲオルグの耳朶を食みながらカイルは腕の拘束を片手で解いた。
「おまえ……」
「あー。オレの方が先に、我慢出来なくなっちゃいました」
ゲオルグの片手を掴み、その掌に口づける。そこに舌を這わせながら相手の様子を窺うと、先ほど以上に鋭い視線に射抜かれてしまいそうな錯覚を得た。再度その瞳に見惚れていると視界が反転する。解放されたゲオルグの両腕をもってカイルはその場に組み敷かれていた。
「ゲオルグ殿。すごくいいお顔、しています……っ」
たった今の言葉に何かを返すわけではなく、ゲオルグはカイルの首筋に顔を埋める。程なくしてそこに舌が這う。
「っ、ん……」
熱い舌とともに彼の吐息も当たる。わかりきっていた事ではあったが、いつもより余裕の感じられないその動きはカイルにとって何よりの興奮材料となっている。
「もっと、……好きなだけ、触れて下さっ……!」
更に彼を煽ろうと片手でゲオルグの頭を撫でようとしたその時。この男の手が先ほどから張りつめていたカイルの性器に触れた。
「ぁ、あっ……ん」
声は殺さず感じるがまま音にする。相手の汗ばんだ手がこちらの吐精を促そうと追い詰めるその動きに、ゲオルグよりも先にカイルが煽られてしまう。そう簡単に吐精しては面白くない。もっと自分を追い詰めるべくその余裕のない頭で考えて欲しい。次はどの手を使うかと考える事で、カイルは何とか気を紛らそうと試みる。
「カイル……」
「はい……?」
組み敷かれてからゲオルグが初めて声を発した。それでも尚、そこに触れられていた手は動いていたので返事の声は少し上擦る。
「声を、聞きたい」
声なら先ほどから出している。その薬には聴力を奪う作用もあるのか。疑問を露わに首を傾げて見せる。
「今の俺では、普段以上に己の欲を優先してしまう。辛かったら、ちゃんと……声に、してほしい」
まだ、そのように言える理性が残っていたのか。それも全てこちらを気遣おうとしている彼の優しさ故であると、カイルは自覚していた。
「はい……ゲオルグ、どの……」
この男には敵わない。それはこの先も変わらないのであろう。それについてカイルは悲観する事は無く、快く受け入れる。
カイルが笑む事で肯定の意を示した後。苦しげにしているゲオルグの表情からも笑みが浮かぶ。その表情を堪能していると、視界が突然遮られる。ゲオルグがカイルの腕を引き、胸元へ閉じ込めたからだ。
「ゲオルグ殿……?」
片腕でカイルを抱きしめ、空いていた方の手は頭を撫でる。状況が状況であるため、それはとても乱雑なものであったが。ただ、愛おしい。
「本当に、おまえは……何処まで俺を……」
「え?」
耳元で思いも寄らぬ事を囁かれる。今の言葉の何がこの男にとって決め手となっていたのか。皆目見当もつかずにいたが嬉しく思う。
「……すまん、戯言だ。忘れてくれ」
「えー。どうしましょう。今の、オレ的にはすごく気になるんですけど……っ?」
ばつが悪いと感じたのか、ゲオルグは苦笑を滲ませながら再びカイルを組み敷く。
「っ……ん、ぅ」
こちらが何か言葉をかける前に、ゲオルグがカイルの唇を己のそれで荒々しく塞ぐ。はぐらかされているような気がしたが悪い気はしない。少しだけ意地の悪い言い方をしてしまったかもしれないと、よくよく思う。彼を宥めるために背中を撫でると、ゲオルグの身体が強張る。薬の効力故である事は確認せずとも理解出来た。このままこちらを気遣おうとしているであろう最後の理性も完全に手放し、貪欲に自分を求めて欲しい。そのような願いを込めてカイルはゲオルグに触れ続ける。
「ぅ、……ん、っ」
ゲオルグの唇がカイルの唇から少しずつ下の方へ移る。顎から首筋、鎖骨を辿って胸元に至った。
「あっ……」
突起を唇で挟まれ、舌先で押しつぶされた。押し寄せる波にたまらずゲオルグを抱きしめる。彼の身動きが取れなくなる事には気を付け、首筋を撫でた。
普段であれば緩やかである前戯も今は何処か性急に思える。それも全て薬のせいである事は自覚済みだ。恐らくゲオルグも同じ事を考えているだろう。胸への愛撫を行なっていたゲオルグの唇は更に下を辿る。更なる悦楽を求め、ゲオルグを欲している事を主張している性器にその熱い舌が当てられる……と、そのように考えていたが。
「っ、え……?」
そこはほんのひと舐めされた程度で、ゲオルグは更に下の方へ移る。疑問を抱いていた矢先。両足を抱えられ、大きく左右に開くよう促された。それに従うと彼の両手がカイルの腰をベッドから軽く浮かせる。
ゲオルグの舌は先ほどまで自分で解していた後孔に当てられた。
「ぁ……」
感嘆の息が漏れる。身体のいたる所を舐められていたが、まさかそこにまで舌が這うとは思っていなかった。
「あぁっ、……す、すごい……」
腰は次第に高くあげられていく。この体位によってこちらを舐めるゲオルグの様子がよく見える。カイルを貪欲に求めるその様子を愛おしく思う。今すぐ相手を抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが、この体勢では不可能だ。されるがままである事は不本意である。しかしこの行為を中断しようという気にはなれない。内部にまでゲオルグの舌が触れてくるこの行為を、やめさせてしまう事は勿体無いと感じる。
「ぁ、う……ん、ぃい……ですっ……ぁ!」
触れる事が不可能であるならせめて今の思いを伝えよう。その一心でカイルは喘ぎを交えつつ感じるまま呟く。その呟きはゲオルグの耳に届いてくれたのか、彼の表情に笑みが滲む。それに伴い自分も笑みを浮かべている事は容易に想像出来る。口づけをしたい衝動に駆られるが、この体勢では無理だ。
「あっ……」
どうしたものかと考えているとゲオルグの指が内へ挿入される。やはり自分の指よりも格段に良いと思うのは仕方のない事だろう。薬に浮かされているにも関わらず、ゲオルグの指はとても優しい。しかしそれは普段通りではなく、荒々しさも感じ取る事が出来る。早く繋がってしまいたい。その衝動を抑え込もうとしているのであれば嬉しい。引き続き都合の良い解釈をしつつ、ゲオルグに身を委ね続けた。
「んっ……」
指を増やされ、内を押し拡げられる。ゲオルグによって内を解されていくこの感覚もカイルは好きであった。
「カイル……、すまん……っ」
腰しか使えない事をもどかしく思っているとゲオルグから声をかけられる。その声音からは湧きあがる欲に耐え続けている事が窺えた。何について謝っているのかと問う事はしない。相手の考えは理解しているつもりでいるからだ。そして何より自分も恐らくこの男と同じ気持ちである。紐を解いた時のようにまたこちらが先に痺れを切らせてしまうのかと思っていた矢先の事で、カイルは安堵していた。
「いい、ですよ……、っん」
指を引き抜かれ、先ほど自分が口にくわえていたものがそこに当てられる。
「きて……ください、ゲオルグ殿……ぁあっ!」
彼らしくはない荒々しい挿入に背中がしなり、自ずと声もあがる。
「カイル……っ、カイル……」
「あぁ、っ……! ゲオ、っルグ……どの、……んんっ、あ、ぁっ!」
うわ言のように何度も名を呼ばれながら突かれる。気を失ってしまいそうなほどの悦楽にカイルは酔いしれていた。普段より性急であったためかそれなりに痛みも伴ったが、さほど気にする事ではない。当初の望み通り、自分は理性を失ったこの男に抱かれている。このまま気を失う事はあまりにも惜しい。意識を繋ぎ止め、ゲオルグに向けて両手を伸ばす。すると、こちらの思いが通じたのか。ゲオルグもカイルと距離を詰めてくれようと、覆い被さってきてくれた。
「んっ、……」
体制を少し変える事でそれまで当たっていた場所も変わる。より深いところを擦られ、更に深く交わる。距離を詰めてくれたゲオルグを抱きしめて自らも腰を使って彼を誘う。 緩急をつけようと緩やかに締めつければ、ゲオルグが低く唸る。
「ゲオルグ殿……っ、いぃ……ですか? ぁ、あ……」
「っ……言うまでもない、だろ?」
至近距離で囁き合った後、唇を貪り合う。明らかにゲオルグからはそれまで残っていたはずの理性が感じられない。このうえなく嬉しい。それが今の思いである。ゲオルグの頭を撫でながら、カイルは意識の代わりに理性を手放した。

 

こちらの本能の赴くまま、抱かれる。それがカイルの望みであったとしても。ゲオルグにとってそれは不本意であったはずなのに。余裕のない表情を露わにすれば相手は満足してくれると思っていた。しかし今はカイルの願い云々よりも自分の意志でこの男を、本能のままに抱いている。カイルを心底好いていた事については元々自覚していたが。まさかここまで隠し持っていた欲をぶつけてしまうとは。頭の片隅で罪悪感が訴えて来ているような気がした。だが、カイルを激しく抱く事を止められない。罪悪感よりも本能が勝ってしまっている。
「すまん、抑えられん……っ」
謝罪の言葉をカイルの耳元で呟く。耐えてみせると考えていたのに実際はこの有り様だ。これは口先だけの謝罪である。ゲオルグはカイルの耳朶を口に含みながら動きを止めようとせず、彼の奥を穿つ。
「っ……あ、っぁあ、いい……、ですよっ……」
後頭部を撫でられながら囁かれる。組み敷かれ、こちらのいいように抱かれてしまっているにも関わらずカイルは今となっても苦痛を訴えずにいた。思いを口にして欲しいと頼んだのはゲオルグだ。カイルは自分の望んだ通り思いを口にしてくれている。気を遣わせてしまっているのかもしれないと理性が焼き切れた今の状態でも、自ずと理解出来た。
「カイル……っ?」
もう一度、この男を思うがままに犯してしまいたい欲を抑えようと試みるべきかもしれない。そう考えているとカイルの手がゲオルグの両頰に置かれ、その顔が近付く。
「余計なこと、考えるの……やめましょ? っ……ね?」
至近距離で囁かれ再びそのまま唇を貪られる。今度こそ理性が焼き切れた事を実感したゲオルグは、絡められているその舌に吸い付く。
「んっ、ぁ……!」
苦しげな声をあげたとも感じたが。仕返しと言わんばかりに繋がっている箇所を締めつけられ、腰を動かして彼の性器もこちらの腹部に擦りつけられる。
(あぁ……そういえば)
今は自分の事ばかりでカイルが吐精した事については今ひとつ確認出来ていない。やはり薬……と、言うよりは。無意識に抱いていた彼に対する肉欲に対して、抗えなかったようだ。唇を離し、ゲオルグは片手をカイルのそこへ移す。
「っ………!」
普段であればそれは相手の吐精を促す為の行為だが、今はそうではない。単にカイルの反応が見たい。それだけであった。
「何度か……出したか?」
相手の反応を窺いながら無意識の内に感じた事を呟く。
「ゲオルグ殿ほどでは、ありませんけどね……」
カイルは恥じらう事無くこちらを見据える。涙目でありながらもそれは普段通りのカイルそのものであった。まだ余裕があるのだろうか。今のゲオルグにはわかりかねた。
「っ、ゲオルグ殿……?」
理解出来ずとも構わない。今は何より愛しい想い人とのこの瞬間を堪能すべきだ。本能のままゲオルグはカイルの性器を、吐精を促そうと擦り始める。
「ぁ、あ……っ」
限界が近い事はカイルの内からも感じる事は出来た。苦しいほどの締めつけも、ただ愛しい。その瞬間を見逃す事のないよう腰を動かしながらカイルを見つめるとこちらの意図が読めたのか、カイルの片手がゲオルグの頰に触れながらその表情からは笑みが浮かぶ。
「今度は、ちゃんと……っ、見ててくださいね……?」
「……!」
吐息混じりに囁かれたその言葉も浮かべられている笑みも、ゲオルグを追い詰めるには充分ほどの威力を発揮していた。
「ゲオルグ殿も……また、出して……」
「あぁ……」
互いの限界を超える瞬間を見つめ合いながらゲオルグはカイルの内に吐精し、カイルは自らの腹部から胸にかけて吐精した。狂ってしまいそうな感覚にさえ酔いしれつつカイルの胸元に唇を近付け、彼の精液を舐めとる。
「ぁ……」
吐精したばかりの状態では些細な愛撫でさえ深く感じてくれているようだ。 熱はまだ収まりそうにない。それは薬の効力故か、常日頃から秘めていた本能故か。どちらにせよゲオルグはいまだ、カイルを離すつもりは無い。
「まだ……いいか?」
「はい。もっと、欲しいです……」
カイルの返答に安堵する。そのままの体制で腰を引く。性器が全て引き抜かれる手前で再びカイルの奥を貫くと、彼の腕に抱きしめられた。
「い、いぃ……すごく、ぁ、あ……」
カイルの片足がゲオルグの腰に絡められ、片手に頰を撫でられる。
空いていたもう片方の手にこちらの手を絡めると、辿々しくありながらも握り返してくれた。
互いに微笑み合い各々が動き続ける。このままこの男と狂ってしまいたい。そのような願いが微かに浮かんでいた事を感じつつ、ゲオルグはカイルを思うがままに抱き続けていた。

「いやー……。さすがに、すごかったですねー……」
熱りもようやく冷めてベッドの中でカイルを抱きしめながら身体を横たえていた時。彼が、ふと口にする。
「すまん」
「やだなー。謝らないで下さいよ。すっごく気持ち良かったんですから」
自然と漏れた謝罪の言葉をカイルは掠れた声で跳ね返す。こちらに擦り寄りながら語る彼の様子からは嘘を言っているとは感じられない。
「期待には応えられたか?」
「もちろん。まさかゲオルグ殿をオレが縛るとか……思いも寄らない展開にも興奮出来ましたし」
それについても内心では不機嫌にさせてしまったかもしれないと、不安に思っていたが。それもこちらの杞憂で終わった。
「ゲオルグ殿はどうでしたか? なんて、訊くまでもないですよね」
腕の中で微笑むカイルは嬉しいと言わんばかりの表情を浮かべている。また気を遣わせてしまっているとも感じたが。そこには彼の本心も含まれていると信じたい。
「よかった」
相手は訊くまでもないと言ってくれていた。しかしゲオルグは自らの思いを呟き、カイルの髪を撫でる。
「嬉しいなー……」
こちらに伴いカイルの片手がゲオルグの髪を撫で始めた。つい先ほどまで激しく抱き合っていた事が、まるで夢であったかのような。そんな穏やかな時間だと感じた。
「ゲオルグ殿もオレもすごく良かったって思ってる。だから何の問題もありませんけど……あなたは、やっぱりちょっとは気にしてるんでしょうね」
飽く事なくこちらの髪を撫でながら、カイルはゲオルグを見据え言葉を続けた。
「オレ的には何度も何度も激しく抱いてもらえて嬉しかったです。でも、ゲオルグ殿的には……オレを手酷く抱いてしまったとか、そんな風にも思ってそうだなーって」
この男は全て見透かしていた。カイルの言葉には非の打ち所がない。
「あぁ、おまえの言う通りだ」
下手に誤魔化す事はせずゲオルグは肯定してみせた。
「そっかー。どうしたらゲオルグ殿の罪悪感を和らげる事が出来ますか?」
「そうだな。こればかりは俺の捉え方になってしまうからな……」
「うーん……それは困りましたねー」
髪を撫でる手が止まり、考え込む素振りを見せられた。その言葉のわりにはそこまで困っているようには思えない。それもカイルの愛嬌の内であると愛しさを込めてゲオルグは微笑む。
「と、おまえは言っているが。もう何か考えが浮かんでいるんだろう?」
「すごいですね。オレの考えを見透かしてくれていて」
「そうでもないさ。おまえが何を考えているかまではわかりかねているからな」
「なるほど」
カイルの表情から何処か悪戯めいたような笑みが垣間見えたような気がする。それをほんの些細な事だと思い、ゲオルグは問う。
「その考えを教えてくれないか?」
「また、お願いを一つ聞いて欲しいです。それで今度こそオレがあの媚薬を試してみたいなー。って、そう考えてました」
ここでようやく気付く。この手の会話を行為の前に交わしたではないか。
彼の悪戯めいた笑みはどうやら気のせいではなかったようだ。まんまと相手の手中に落ちたと実感したゲオルグは苦笑を浮かべながらカイルを抱きしめた。