静かな決意

ソルファレナ奪還戦までの本編ネタバレあり。太陽宮を目前に、ある決意をカイルが抱く話。

ここに辿り着くまで、様々なことがあった。最初は理解できなかったサイアリーズの真意も、今では確信に近づけている。なぜ、もっと早く気づけなかったのか。悔やんでも状況が変わるはずもないが、やりきれない。
しかし、太陽宮城門前に立つと自らの感情は自然と抑えられる。心が押しつぶされそうな状況ではあるが、己の使命は見失っていない。
(やっと、帰ってこれた……)
一度は失敗に終わったリムスレーア奪還のため、カイルは前を向く。太陽宮が遠目に見えたところで、軍勢が待ち構えているとわかる。そこにいるであろうザハークを、今度こそ倒すとカイルは決心した。彼を許せない気持ちは、今も変わらない。
(今度こそ、オトシマエをつけないとね)
かつては同じ女王騎士との認識が、太陽宮を襲撃された夜から崩れ始めた。
(やっぱりオレは、あんたを女王騎士とは思わない)
恐らく、ザハークもカイルに同様の感情を持っているだろう。この戦いを終えても、それぞれの思いは変わらないはずだ。
とはいえ、カイルはザハークも恩人の一人としても考えている。今は道を違えてしまったが、かつては仲間だったと思えるからだ。
(いつかのルセリナちゃんと、心境が似てるかもね)
せめて、彼がこれ以上の罪を重ねる前に自分が終わらせる。それが唯一の方法だと自覚した。
兵士を蹴散らしながら橋を進むと、ザハークとアレニアの姿が見えてくる。彼女の相手はミアキスに任せ、迷わずに彼の元へ走った。
「また会ったね」
倒すべき相手を見据え、自分でも驚くほど冷静になれる。
「貴殿か。相変わらずだな」
無表情で語るザハークの感情こそ彼らしい。襲いかかる兵士たちを返り討ちにしつつ、彼がいつ仕掛けてきてもいいように様子をうかがう。
「……いつ見ても、品のない剣技だな」
「どんなにお行儀よくても、いざって時に勝てなきゃダメでしょ。自分を守るためなら手段を選ばない、あんたには言われたくないんだけど?」
挑発というよりは、本音を伝える。ザハークは無表情のままだ。
(オレの言葉なんか、聞く耳を持ってない感じだなー)
それこそ、カイルも彼のことは言えない。自分もまた、相手の言葉に耳を傾ける気は少しもないのだから。
「とりあえず、そこを退いてもらうよ」
これ以上の会話は不要だと判断し、カイルはザハークへ剣を向けた。