2019夏コミ新刊サンプル

ゲオカイR-18 
ED後。全てが終わり、空虚感を抱いていたカイルをゲオルグが旅に誘う。
互いをそこそこ気の合う相手と思っていた二人が旅の中で相手を意識し、気持ちが変化していく話。

それまでの頒布物より、カイルの恥じらい度がやや強めです。

カイルが消えてしまいそうだと話していた王子の言葉を、レルカーに向かう道中でゲオルグは理解する。戦いを終えた彼の姿は、何処か儚げだった。そんなあの男を周囲の一部は憂いを帯びた様子も美しいと言いながら、同時に心配もしていたと思い出す。カイルを案じていたのは王子とリオンだけではない。その周囲を含めた自分も、当人が気にかかっていた。相手の反応については今も後ろ向きの想像が続くが、自らが出来る事は全て行う気でいる。心を強く持ち、レルカーに辿り着いたその足ですぐにカイルを探す。酒場でこの男を見つけた時は、それまで以上の儚さを感じた。有り得ないとはわかるが、今すぐにでも消えてしまいそうだ。そして、周囲が言っていた美しいという意味も初めて理解する。たった今芽生えたそれは捨て置き、本人の元へ向かう。相手の反応は好感触ではないと、最初からわかっていた。王子に託されたと伝えても余計な気を遣わせてしまうだけだと考えていたので、それだけはあえて伝えないでおく。断られたなら仕方がない。このまま誰にも気付かれず、当初の予定通り一人でファレナを発つ気でいた。
しかし今、心境は変わる。カイルを放っておけない。フェリドの忘れ形見のような彼の今後を、見届けたいという強い意志が心の中で形になりつつある。表向きは軽い雰囲気を装うとしたが、滲み出る強い思いは上手く隠しきれない。言葉に力が入ってしまったと気付き、視線も鋭くなってしまった自覚もある。
 必死さが伝われば当人を辟易させてしまうと恐れたが、意外にもカイルは二つ返事で了承してくれた。最初に見せられた戸惑う様子は予想済みだったが、そこまでは全く想像していなかった。ゲオルグが女性だったら……と言われるのも予め思い描いていたが。それは誘いを断られたうえで言われるとばかり考えていた。
「……どうしたんですか? オレがあなたの誘いに乗ったのが、そんなにビックリしちゃいました?」
「おまえの言う通りだ。驚きと嬉しさのあまり、放心していた」
「そんなに喜んでくれるなんて……照れますね」
頰を人差し指で掻きながら笑むその表情は、紛れもない本心だと受け取れた。都合のいい解釈と自覚したうえだ。
王子たちからカイルの話を聞いて彼を誘おうと心に決めたと、彼に話したそれは本気だったわけではない。断られたらそれまでだと、軽い気持ちでいた。しかし、カイルと共に一時を過ごして気が変わる。とても楽しかった。そんな彼とこの先も共に歩むのも、悪くない。それどころか、強く望んでいる自分がいる。元々気の良い相手だと認識はしていたが、まさかここまでとは。この男と別れ難い。戦いを終えて心に隙間が出来た事で、それまで気付かなかった感情が顔を出す。
自分は思っている以上にカイルを好いているのかもしれない。無意識の内に今まで心にあったのか、たった今抱いた思いなのか。わからないが、明確にする気はない。思いは容易くまとまる。
「楽しくなりそうだな」
隠そうとせず口にすれば、相手は照れた様子を一層強く見せた。酒が入っているからこそ、カイルが愛らしく見えて仕方がないのかもしれない。
「そうですね。ゲオルグ殿は男だけど、不思議とそこまで嫌じゃないなー」
この男も同じく、酒に酔っている故にこちらにとって甘い言葉をかけてくれるのだ。
「調子に乗るぞ?」
「どうぞ。ゲオルグ殿って、案外可愛らしいんですね。素直で、子供みたいだ」
 たった今浮かんだ考えは、カイルの言葉によって確信づけられた。
戦いは終わったのだから今日の所は全て酒のせいとし、浮かれたままでいよう。だが、一つだけ言っておきたい事がある。
「翌日になっての撤回は、聞かんぞ」
「念押しですか。ますます可愛く見えてきますよ。そんなに心配しなくても、大丈夫ですってばー」
酔っ払いの言葉をあてにしてはいけない。わかってはいるが、彼の言う通り念を押さずにはいられなかった。それまでは王子の願いで動いていたが、自らの本能がそれを追い越したと自覚する。カイルに少しずつ惹かれていた。その思いが行動を起こすきっかけとなる。今を全て酒のせいにし、無かった事にはしたくない。
「絶対、だぞ?」
「はーい。大丈夫ですよー」
必死さが露わになっている自分を情けないと思うが、今の気持ちを撤回する気はなかった。感情的になっている現状にも納得する。やはり彼を好いているという理由に、全て直結していた。信憑性はない。相変わらずその考えは変わらないが、今は彼の言葉を信じよう。それしか出来ない。もし、彼が撤回を求めたならば。その時は潔く諦めようと心に決めた。

翌朝。昨夜の食堂で落ち合おうと約束した。珍しく緊張している自分がいる。
(なるようにしか、ならん)
眠りに就く直前に浮かんだ考えを再度、胸中で呟く。
身支度を終える直前で眼帯が無いと少し焦る。しかし、それはもうセラス湖に沈んでいるのだとすぐに気付く。まだ寝ぼけていると痛感し、気を引き締めて現地に向かった。思えばカイルもゲオルグと同じ宿をとっていたのだから、待ち合わせは同場所の受付周辺でも良かったのではないか。まだ頭は夢の中だと思い知る。そもそも、そう言いだしたのは自分ではないか。 心地良く酒に酔っていたので、深く考えずに口にした。今更振り返ったところで、自分の望む答えのみを手に入れられるわけではない。それ以上考える事は一切やめる。食堂に足を踏み入れると、カイルは昨晩と同じ席に座っていた。ゲオルグに気付くと、手を振ってくれる。
「相席、いいか?」
 歩み寄り、今度は席に着く前に問う。
「律儀だなー。いいですよー」
こちらの意図に気付いていたからこその言葉だろうと察した。聞けばカイルも、この場に来て間もないらしい。二人で朝食を何にするか、品書きを見ながら考え始める。何て事はない時間ではあるが、嬉しい。戦いが終わって気が抜けているのもそうだが、何より好意を抱いている相手と共に過ごしているからだ。もうしばらく堪能していたい。しかし、そうして目前に控えている事柄から目を逸らしてはいけないと決意した。
「改めて問うが、本当にいいんだな?」
 それぞれが目当ての物を注文し終えた直後に問う。
「もー、そんなに信用出来ませんでしたー?」
「当然だろう?」
 本心を告げると、苦笑される。
「日頃の行いってやつかー……」
その通りだったので何も口を挟まずにいると、苦笑していた相手の笑みがこちらを試すようなものに変わる。直後、彼が口を開いた。
「じゃあ昨日の事は、ほんとに撤回しちゃおっかなー」
 無表情を留められたが、血の気が引く。
「……なーんてね。嘘ですよ。ゲオルグ殿があんまりにも疑ってるんで、ちょっとだけ意地悪しちゃいました」
そういう事かと、ひどく安堵する。
「なるほど、自業自得だったな。手遅れになる前で良かった」
「手遅れだなんて。そんなにオレを連れて行きたいんですかー?」
「あぁ。元々おまえとは相性が良いと感じていてな。昨晩で確信した」
熱が入り過ぎているかもしれないと、多少思う。引かれてしまったかもしれないと自覚しながらも、撤回はしない。
「悪い気はしないなー。じゃ、そうと決まれば一緒に行きましょー! オレは外の国は全くわからないから、ゲオルグ殿にお任せしちゃいまーす」
「あぁ。ファレナを出たら、しばらくはあてもない旅にしようと思う」
「そーだ! せっかくなんで甘味処巡りでもしますか」
「いいのか?」
思わぬ彼の提案に声が弾む。
「もちろん」
相手は笑みを交えて肯定してくれた。
「ゲオルグ殿が女性だったら、もっともっと嬉しかったんだけどなー」
「それは悪かった。しかし俺は、おまえが女だろうが男だろうが気持ちは変わらんさ」
「ちょっと、やめて下さいよー。オレ、口説かれてるみたいですー」
「すまんな。さっきの、ちょっとした仕返しだ」
あくまで冗談の範囲内で言い合い、笑い合う。だが、ゲオルグが女性であったら。その言葉は心の底に残っている。
(わかっていた事だ)
彼と共にいられればそれでいい。それ以上望むのは、あまりにも欲張り過ぎだ。
「じゃ、行きますか」
「あぁ」
これから生まれ育った国を発つというのに、カイルからは未練を一切感じられない。それは心からの反応なのかと気になるが、詮索するのもまた欲張りと考えて心の奥底にしまう。
まずはレルカーを出ようと船着場に向かった。カイルをファレナから連れ出せて良かった。 気付いて間もないわりに、感情が加速し過ぎだと気付いた。その理由はすぐに浮かぶ。サイアリーズとは少し違う意味で、彼を自分が気付かぬ内に好いていた。この仮定は確信として考えていいだろう。

―――――――――

この男には何か特別な力が備わっているのかとさえ思えてくる。そうでなければ、同性に全く興味がなかった自分がここまで感じられるわけがない。
(ゲオルグ殿……だから?)
一つの結論にいたった瞬間、気恥ずかしさが全身を駆けめぐる。その場から逃げ出してしまいたくなった。しかし、愛撫をやめて欲しいと気変わりしたわけではない。
ゲオルグにしがみつき、顔を見られないように相手の肩に顎を乗せた。表情を窺わせない利点はあるが、これでは次に彼がどんな事をしてくるか想像がつかない。
「あっ……」
なので、腰を緩やかに撫でられた際に声が出てしまう。己の者とは思えない、女性のような甘い声。カイルは自分がますます信じられなくなる。
「っ、……ん、」
気を良くしたのか、ゲオルグがそこを何度も撫でる。彼にとっては好感触であったとしても、自分としては不本意だ。片手で自らの口を抑え、漏れる声をそこに留まらせる。
「抑えなくていい……」
「……!」
耳元に相手の吐息がかかり、その声が脳内に直接響いたように感じた。とても熱く感じる声に混じった吐息は、それまでよりこの男も余裕が削がれているのかもしれないと思わせる。当人の希望に沿いたいとも思うが、相変わらず心境は複雑だ。
 ゲオルグは、それ以上声をあげるようにと強要はしてこない。それについても、選択をこちらに委ねる余裕は残されているようだ。それならば自らの意思に従うまでと、カイルは声を抑え続ける方を選んだ。同時にそれは、否定する声をあげないままでいるという考えも含まれている。こちらの意図を汲んでくれているのか、ゲオルグは行為を続けていた。腰を撫でられ続け、耳朶を唇で食まれる。それまで以上に身体が跳ね、彼にしがみついていなくては立っていられない状況だ。背中に回していた手で、相手の衣をきつく掴む。
「場所を、変える」
 この男が何かを囁くたび、身体がわずかな痺れを感じる。
「歩けるか?」
そのままの状態で問われ、頷くだけで精一杯だ。彼に連れられ、寝台へ移動する。いよいよ本格的な行為へ移ると察するが、それでもまだ拒もうとは思えない。だが、組み敷かれつつ顔を間近に見つめられるのは少々居心地が悪かった。
「あまり……見ないで下さい……」
 我ながら驚くほど震える声で何とか思いを言葉にしながら、両手で自分の顔を覆った。
「わかった」
再度、耳元で囁かれる。それも意図的な行為なのか、それとも無自覚か。恐らく後者のような気がした。その相手の声一つで、自分はどうしようもないほど乱される。引き続き相手の動向が読めないが、顔を見られるよりは良い。上半身を露わにされていると伝わり、身体が強張る。 熱い彼の吐息をそこに感じた直後、柔らかい何かが押し当てられた。それが唇であるとは、確認せずともわかる。ゲオルグは男色の気があったのか。そうでなければこんな事はしないはずだ。好んで同性の肌を貪るなど、自分では考えられない。
(でも……やめろって言わないオレも、同類なのかなー……)
それまで以上にぼんやりとしながら思う。この際、何処までが許容範囲か徹底的に確かめてみるべきなのかもしれない。
突起に舌が絡められ、微かに聞こえる彼の息遣いが思考を止める。むずがゆい感覚に身体が跳ねた。片方だけに気を取られていると、空いていたそこに何かが当たる。相手の指に摘まれていると想像がついた。一体、どんな顔をしているのか。見てみたいが、それは同時にこちらの顔も見せてしまう。とても情けない顔をしていると仮定したこの表情は見られたくない。優しいこの男はそれを見たところで、軽蔑するのではなく喜ばしいと受け取ってくれるだろう。いや、自惚れかもしれない。こんな顔を見てしまったら、こちらが嫌と言う前に相手が萎えるとも考えられる。それは嫌だと、気付いてしまった。
「まだ、続けていいか?」
そうか、この状態では声も上手く出せない。掌を少し移動させ、口元のみを相手に見せる。それだけでも、ひどく気恥ずかしい。
「も……いちいち、きかなくて……いいから……」
やめなくていい、続けてほしい。
辛うじて音には出来たものの、全てを言葉にする前に口を閉ざしてしまう。熱に浮かされて気の抜けた、とても情けない声に耐えられなかった。
「辛かったら、すぐに言うと約束してくれるか?」
そこまで心配ならば、自ら止めればいい。止めないのは何よりゲオルグがカイルを求めているからと考えに至ると、胸中が苦しくなりつつも温かくなった。
「はい……」
たった今発した声は、ほぼ吐息だ。これでは相手に伝わったか、とても危うい。しかし、彼が止めていた手を動かした事でその不安は払拭された。これでしばらくは口を利かなくて済む。
安堵しながら掌で再び顔全てを覆ってしまおうとした時。唇に生暖かい何かが、隠そうとする前に這う。覚えのある感覚だ。つい先ほど、己の舌が相手のそれに絡められた。
(口、だけなら……やっぱ、いい、かな……)
少しも顔を見せたくないと思っていたはずなのに、気変わりしてしまう。相手との口づけがたまらなく気持ち良かったと、片隅で記憶していたからだ。唇を薄く開いて舌を覗かせれば、すぐに絡められる。そこを吸われている今も、胸への愛撫は続いた。
ゲオルグは前戯に時間をかけるようだ。彼自身の優しさ故とすぐにわかる。拒絶する気は一向に起きず、ひたすら与えられる悦楽に身体を震わせた。すっかり熱に浮かされてしまったからこそ正しい判断も困難になっているのかもしれない。それならそれで良かった。
ゲオルグの唇と舌を堪能していると胸に触れていた両手が下腹部へ移る。下服を脱がされているとわかった。当然そこにも触れられると予想している。外気に触れた性器が、全身と同じく震えた。
実際と想像はあまりにも違う。だが、それでも抵抗する気は起きない。既に反応していると自覚済の性器に彼の指が直に絡められた。慎重な動きではあるが、それは確実にカイルを追いつめていく。同性相手は初めてであるにも関わらず、まるで以前から知っていたかのように身体は存分に感じていた。
(わっ、……うそっ……そんな)
顔を隠すのに精一杯な状況では、両脚を開かれてしまう事を容易に許してしまう。いくら続けていいとはいえ、さすがに少しの抵抗がある。とはいえ、力は入りそうにない。すぐにまた触れてくると思いきや、ゲオルグの両手はカイルの脚に触れたままだ。見られているとわかり、性器がまた震えた。
「はやく……さわって……」
堪えられずに声をあげてしまう。再度そこに触れられることで、悦楽によって思考が覆され始めた。脚をだらしなく広げて性器を晒す状況は気恥ずかしいはずなのに、今まで以上に感じている。何度か発した情けない声や上擦った声など、比べ物にならない声が出てしまいそうだった。それを懸念し、口元も今度こそ掌で覆い隠す。あがってしまいそうな声は全てそこに吸い込ませる。
もう何も考えられない。この男の目前で達してしまっても、ここまで身体を開かれてしまっていては今更だ。本能に身を任せようとしたところで、性器からゲオルグの指が外れた。何事かと思った直後、手首を掴まれて顔を覆っていた手を引き剥がされる。
「……、っ! みない、で……って、いった……のにっ」
何が起きたのか、わからなかったのはほんの一瞬のみ。ぼやけている視界の中で相手がこちらを見つめているとわかり、何よりも気恥ずかしさが強くなった。しかし力は相手の方が上なので、再び顔を隠そうとしても実行出来ない。
「すまん。このままでは酸欠になってしまうだろうと思ってな」
何故、今になって強引にこちらの表情を晒したのか。その答えは問うより先に相手が話してくれた。あくまでこちらを気遣う為であったとわかり、改めてこの男の優しさを実感する。
「……少なからず、おまえの顔が見たいという思いもあったが」
何一つ隠さずに伝えるその姿勢が何処か愛おしく、自然と笑みが浮かぶ。今も明確ではない視界の中ではあるが、同じく相手も笑ってくれているような気がする。
自らの心持ちにカイルはやや戸惑う。ゴルディアス潜入の当時。むさ苦しいと率直に呟いた己が、現状を見たら嘘だと言うに違いない。
熱に浮かされた頭は、このまま彼のものになってしまいたいとさえ考え始めていた。