大喜利大会その1

お題:初めてカイルがゲオルグの前で髪をおろす。その時の彼の反応は?
3本勝負の内、1本目です。お題提供はえのもとさんより!

「女王騎士と言うのは大変だな」
その日の公務を終えた夜。宮内のカイルの部屋にて時間を共に過ごしていた時にゲオルグが、突然呟く。
「どうしたんですか? 急に」
「唐突に思ってな」
机を挟み、向かい合わせで椅子に腰掛けて語らうこの時間をカイルは気に入っていた。今となっては日課とも言えるこの瞬間があるからこそ、あまり乗り気ではない書類処理業務も日々こなせている。ゲオルグがここに来るまでは、フェリドに宥められてようやく着手していた事もあった。
「その髪の手入れも、公務の内に含まれているんだろう? 」
「あぁ、これですか」
結っている自らの毛先を摘んで見せると、ゲオルグは頷く。関心を持たれる事を嬉しく思う。
「手入れもそうだが、毎朝結うのも大変だと思える」
「確かに最初の方はしんどかったですよ。今よりも髪は短かったってのに、結うのにすごく時間もかけたりしました」
「短かったのか?」
「はい。フェリド様に拾ってもらった時は、大体ここら辺までの長さだったんですよ」
首筋を指差しながら説明するとゲオルグは驚いたような表情を浮かべる。
「そこまで短かったのか?」
「えぇ。そんな時期がオレにもありました」
「そうか……」
「ゲオルグ殿。驚き過ぎですよー?」
そこまで驚かれるとは意外だと思う。今のゲオルグは信じられないと言わんばかりの表情でカイルを見つめている。
「仕方無いだろう。俺は髪の長いお前しか知らん」
「まー、当然ですよね」
「とてもよく、似合っている」
「……」
驚いていただけの表情は穏やかなものへと変わる。少々気恥ずかしく思うが、カイルはその言葉を素直に受け取る事にした。
「ありがとうございます。けっこう手入れとかも気を遣ってるんで、褒めてもらえるのは嬉しいです」
「そこまで伸ばすのは大変だっただろう?」
「うーん。確かに大変だなって思いましたけど、この長さになるまでには慣れちゃいましたね。しんどかったのは最初ぐらいかなって」
「そういうものなのか」
「少なくとも、オレはそう思いまーす」
上機嫌で持論を語ると、ゲオルグの口元が笑む。カイルからすれば大した事のない話ではあるが、優しい表情で自分の話に耳を傾けてくれる事は嬉しい。
「おかしな話なんですけど、今の方が髪も長いし短い時よりも手入れも結うのも大変。きっとゲオルグ殿もそう思ったんでしょうけど、何て言えばいいかなー……。慣れってやつですよ」
「慣れるもんなのか?」
「はい。意外とそうですよ?」
信じられないと言わんばかりのゲオルグを目の当たりにし、一つの提案が浮かぶ。
「そーだ! そんなに信じられないなら、今ここで見せてあげますよ」
「何をだ?」
「どれだけ簡単に髪を結べるか。実際に見てみたらきっとゲオルグも納得してくれるかなーって」
相手の返事を聞くよりも先に、額当てを外す。席を立ち、少し離れた位置にある引き出しに櫛を手にして戻る。
「今ここで、見せてくれるのか?」
「はい。オレにとっては、それほど手間をかけるほどの事じゃありませんし」
彼の眼差しからは期待のようなものが感じ取れる。子供を思わせるその瞳に、カイルもより乗り気となっていた。頭頂の青紐を解いた後、毛先を解く。やや乱れた髪を整えようと、近場に置いた櫛に手を伸ばした時。
「長いな」
ゲオルグが、それまで以上に驚いた様子で呟く。
「そりゃそーですよ。この長さだからこそ、あの髪型が出来上がるわけですし」
「綺麗だ」
「お上手ですねー……」
髪を結って見せる。その思いは今も変わらずにあったが、寄り道をしたい衝動に駆られた。
「ゲオルグ殿は、ただ見ているだけでいいんですか?」
ゲオルグの元まで歩み寄り、カイルは笑みを浮かべて見せた。
「いいのか?」
「勿論、いいですよ」
こちらの意図は掴んでいたようで、ゲオルグの指がカイルの毛先に触れ始める。髪を結って見せる事は、どうやらしばらく先の話になりそうだ。より触れやすいようにと、カイルは椅子に腰掛けたままのゲオルグの首へ両腕を回した。