Popper’s Quest9 新刊サンプル【神六】

本作表紙はFIFNEL様(https://fifnel.booth.pm/)に作成して頂きました!
MZD × 六
六の誕生日プレゼントなどについてMZDが思い悩み、そんなMZDの真意を六が探る話。
KKとジャックが二人の間に巻き込まれています。

六と恋仲になる少し前。MZDは彼の誕生日を教えてもらう。何気ない会話の中であがった話題だ。
(あの時は……友人の一人として、あいつを祝ってやろうって思ったけどな)
話の流れで自分の誕生日も話しながら、あれこれ考えていたことを思い出す。当時とは状況が嬉しい意味で変わってしまった今、恋人だからこそできる祝い方で六を喜ばせたい。プレゼントもこだわり抜いて、自分がこれだと決めた物を渡したいと計画する。大勢から好かれている六だからこそ、MZDが彼の中で一番心に残りたかった。
目的は明確だが、この先が問題だ。これだといえる案が、いつまで経っても固まらない。自分の考えが全部、ちっぽけでありきたりにしか感じられなかった。
(六は王道を嫌っているからな。めっちゃくちゃ意外な方法でいかねえと……)
それが見つけられず、六の誕生日が近づいている。自らが根城としているスタジオにて、今日も一人で作戦を練っていた。普段は作曲や編曲、パーティの準備などの作業に使うノートパソコンを開き、恋人が驚く誕生日の贈り物や過ごし方を調べている。目につくものは全て王道な方法に見えてしまった。
(やっぱり、最後の手段に頼るしかねえな……)
出来れば自分の力だけで六の誕生日を迎えたかったが、彼を喜ばせるという一番の目的を果たすためなら持っているプライドは全て捨てられた。その最終手段を、今から実行しようと思う。
気持ちを引きしめた直後にスタジオのドアが開けられる。
「おー、今日はありがとな? とりあえず、座ってくれ」
近場の椅子を指差し、MZDはMr.KKを招き入れた。
「仕事の依頼だって聞いたからな」
「何でも屋としてのおまえに、頼みがある。六が誕生日に欲しいものを探ってほしい」
「……いや、それはてめえが勝手にやれよ」
椅子に腰掛けた直後、彼は気だるそうに返す。自分は関わりたくないとの様子だ。
「こっちは依頼人だぞ?」
「だから、丁重に扱えってか?」
「いや、まぁ……こっちがバカなことを言ってるのはわかってる。でもな、こればかりはどうしても譲れねえ」
「俺の手を借りなくたって、他でもないおまえのプレゼントなら六は喜ぶんじゃねえの?」
「足りねえよ。俺が一番、六の記憶に残りたい」
自分は貪欲だからこそ彼を雇う気でいる。本音を隠さずに伝えるが、相手は聞き流しているような態度のままだ。
「わかってるよ。これは俺と六の問題なんだから、巻き込むなって言いたいんだろ? だけどな、絶対に成功させたいんだ。六と会って、俺は良い意味で色々変われた。その恩を返したい」
だからこそ、誰かの力を借りてでも六を最も喜ばせる方法を選んだ。どうしてもKKが仕事を受けたくないなら、また次の手を考えなくてはいけない。
「……わかった。そこまで言うってことは、単なる惚気じゃねえんだな? それなら、引き受けてやるよ」
乗り気ではない様子のままだが、心の底から安堵する。本題に移ろうと気持ちを切り替えた。
「ありがとな? すっげえ心強い」
彼の腕は信頼できる。今回が初めての依頼ではなく、パーティ関連で何度か世話になっていたからだ。KKは心持ちを隠すことがMZDより長けている。六には絶対に悟られてはいけないので、慎重に立ち回るためには当人の助けが必要だった。

 

KKの協力を得られて、それまでより前向きな気持ちでMZDは日々を過ごしていたが。
「エム。なにか、悩みでもあるのか?」
「え? そんな風に見えるか?」
「あぁ。だから質問している」
六宅の縁側に腰掛け、二人で過ごしている時に突然問われる。
内心は慎重に、普段どおり立ち回っているつもりだった。しかし、察しの良い彼はこちらの隠しごとに気づいているようだ。
「ありがとな? 本当に、これといった悩みはないからさ」
とてつもなく心が痛む。彼を喜ばせるためとはいえ、嘘をついてしまったからだ。
「よーし! 心配してくれた六には、俺様が飯をおごってやるよ!」
やや強引に六の腕をつかみ、その場から立ちあがる。
「……そこまで思いつめていないなら、いい」
小さな声だったが、しっかり聞き取れた。MZDは今の言葉を六の独り言として受け取る。「それで、何を食わせてくれるんだ?」
彼は問いつめたい気配を感じさせず、微笑むのみだった。
「居酒屋。六の好きな酒がいっぱい飲めるだろ?」
話を逸らすため、とっさに浮かんだ案だと知られないように自然な態度を装う。心は今も痛み続けていた。
(ごめん。この嘘が帳消しになるぐらい、最高の誕生日にするから……)
それまで、どうにか逃げ切るのだと罪悪感に言い聞かせる。今の選択が間違っていなかったと思えるように、なんとしても成功させるとMZDは強く決意した。